第7話樹にクラスの味方が現れる

俺と陽葵ちゃんは今日も元書道部の部室で過ごす。


俺も陽葵ちゃんも実は本の虫だから、二人とも黙ってめいめい好きな本を読んでいる。


俺は太宰を、陽葵ちゃんは婚約破棄系の女子向けのラノベを読んでいる。


婚約破棄系って、痛快だけど、なんとなく、女子の怖さを感じる。


いや、ダメな婚約者を追い詰める経緯がもうとんでもなく論理的で明晰で……ちょっと想像を豊かにすると、女の子を怒らせると、あんな感じで怒られるのかなぁと思って怖い。


陽葵ちゃんを見る。陽葵ちゃんと喧嘩すると、あんな感じで怒られるのかな?


あれ? 意外といいかも……いかん、おかしい性癖が生まれるところだった。


そんなたわいもないことを考えていると。


コンコン。


元書道部の部室のドアをノックする音が聞こえた。


俺と陽葵ちゃんは顔を見合わせる。


この場所はあまり知られてはいないが、俺が悪い意味で有名になったせいで、最近は知っているヤツもいるかもしれない。無論、危険な場所として認知されていると思う。


当然、ここを訪ねる者なんていない筈だ。陽葵ちゃん意外は。


ドアを開けて、見知った顔の男子が入ってきた。


「えっと、どうしたんだ? 大和?」


「い、樹……僕、お前に謝りたくて……その」


俺はボッチのクラスメイトの大和を思わず凝視してしまった。


大和はかなりのボッチだった。だが、大和は俺へのイジメには加担していない。


むしろ、俺を辛そうに見ていた。


無論、だからと言って、助ける……なんてことはしてくれない。


当然だろう。そんなことをすれば、刃は彼にも向くだろう。


俺だって、逆の立場なら、そうするかもしれない。


だから、大和を恨んだりはしていない。


「樹、僕、覚悟したよ。やっぱりお前が噂通りみたいなことする訳がないと思う。何もかもがおかしいよ」


「や、大和? お前、俺のこと信じてくれるのか?」


俺は思わず涙が出そうになるくらい嬉しくなった。


陽葵ちゃんが信じてくれた時も嬉しかった。それに近いくらいの嬉しさだ。


「ああ、僕、推理小説マニアだから……樹が犯人だという証拠なんて皆無だし、噂ばかりが先行してかなりおかしいと思ったんだ。いや、かなりの人がそう思ってると思う」


「あん、先輩ば信じてくるーと? 陽葵ぁ! 嬉しか!」


「えっ?」


陽葵ちゃんの言葉を聞いて、何故か大和は驚く。


「ええっと? ごめん、この子本物? てっきり等身大フィギアかと思っていたから、その……あまりの寂しさにとうとうフィギア相手に……」


こいつ、喧嘩売りたいのかな?


「陽葵は本物の人間だよ。それに樹先輩はそげな趣味はなかて思う」


「いや、ごめんごめん。最近のフィギュアは精巧だし、別にフィギア持っていても不思議はないと思うし、俺もカノンちゃんの頭身大フィギア持ってるし」


持ってるんかい!


なんか、こいつ俺より可哀想なんじゃないかという気がしてきた。


「ああ、フィギアのことはおいておいて、この子は俺を唯一信じてくれているんだ」


「そうか……妹だな」


「はぁ?」


何言ってるんだ、こいつ?


「僕にはわかる、君の妹だけは君を信じてくれたんだな。決して、彼女なんかじゃないよな? 彼女持ちのヤツに人権はないからな」


コイツ……。


せっかく信じてくれそうなのに、めんどくさい性格だな。


「あの、陽葵は先輩んお、よ、ひやっ!?」


俺は慌てて陽葵ちゃんの口を手のひらで塞いだ。


貴重な友人を逃したくない。


たとえ、ちょっとおかしいヤツでも、これ以上友達のいないクラスでの生活に耐えられない。


「(陽葵ちゃん、ごめん、空気読んで! お願い)」


「(はい。なんかなしわかった)」


俺と陽葵ちゃんはひそひそと話しあった。


「な? この子、決して樹の彼女なんかじゃないよな? お前だってボッチだもんな。そんなずるいことありえないよな?」


「ああ、もちろんだ。この子は俺の妹で、陽葵ちゃんと言うんだ」


「そっか、陽葵ちゃんって言うんだ。可愛いな。よろしくね」


「陽葵です。よろしゅうお願いします」


陽葵ちゃんがぺこりと頭を下げる。


「いい子だな。僕、応援しているからな! 同じボッチ同士!」


「ああ、頼むよ。俺も流石にクラスで孤立して辛くて」


「ああ、わかるよ。俺も毎日、如何にボッチであることを気取られないように休み時間中過ごすとか、一人も友達いないこと気取られないようにカモフラージュするの大変だからな」


気のせいかな? 俺より重症だと思う。


て言うか、大和に友達が一人もいないことはみんな知っていることだ。


大和だけ知らないんだよな。不憫すぎる。


しかし、今の俺には友達を選んでいる余裕なんてなかった。


こんな俺に手を差し伸べてくれるんだから、きっと根はいいヤツだと思う。


「ありがとう。大和。俺、お前には感謝しか湧かないよ」


「ああ、だから、誰もいない時は僕に話しかけてもいいからね。でも、クラスの中では知らんぷりだからね」


何だこの最低野郎は?


「じゃ、またこの教室に来るよ。僕もバレると大変だから!」


大和はそう言って去ってしまった。


「先輩、よかと? 陽葵が先輩の未来の嫁ってことバレたら、友達無くすと?」


「いや……多分、あいつ、それでも友達でいてくれると思う」


「なんでと? 先輩?」


「それはあいつは他に友達のあてがないから……」


そう、俺も他に友達のあてがないから……。


ボッチ同士の友達関係は複雑だ。そう、ボッチに友達を選ぶなんて贅沢は出来ないのだ。


あるのは妥協という名の元の付き合い。


あれ?


俺、なんか頬に涙が伝わって来てるような気がする。


気のせいだよな。うん、そう思おう。

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