138 魔導工房


『クリア! 工房拡張クエスト 叡智の宝玉1/1 妖精祝福の木材10/10』


《魔導工房が建築可能になりました。役所で申し込んでください》


 前にも見た案内が出たのでさっさと申し込み。


「う~ん、でも」


 俺は『ゲーム』の画面から目を離し、宿屋の窓から見える光景に目を向けた。


「あれ、どうにかしないといけないよなぁ」


 ここはまだザルム武装国。

 街の中心が見事に空白地になっている。

 よくわかんない魔物が叡智の宝玉を手に入れて暴走した結果、女王であるソウラの館がなくなった。

 あそこは王国の城みたいみたいなもの。

 女王の家であり、政治の中心でもある。


「気にするな、命があればなんとでもなる」


 ソウラは動じていないようだったけれど、さすがに放置して去るのは悪い気がする。

 ルフヘムと違って国が滅んだとかじゃないからね。

「知~らない」って逃げるのも悪い。

 というか……ね。

 本当に俺の子供が産まれる……うんまぁ、『孕ませ力向上+2』もあるから産まれるだろうし。

 それで将来、父親のこと聞かれて「あの人はね、城を壊してそのまま去っていったんだよ」とか言われたらどうする?


「……最低すぎる」


 向こうの世界の両親は普通の人だったが、こっちの村では食い扶持減らしに子供をポイ捨てするようなアレな存在だ。

 アレと一緒の扱いだけは嫌だ。

 それに魔物国家との争いの激しいこの国で、内部が乱れた状態というのはきっとよろしくない。


「なんとかしなければ……」


 考えながら手は『ゲーム』のコントローラーを握ったまま。

 役所で魔導工房の建築の申し込みを済ませてから、ずっと自キャラをグルグルさせている。


「う~ん、とりあえず瓦礫の撤去とか手伝うか?」


 ん?


 役所のキャラの頭の上に会話マークがある。

 なんだと思って話しかけてみる。


「なにかお悩みがあるのですね?」


 なんかタイムリーなことを聞かれた。


「お悩みがあるなら何でもおっしゃってくださいね」


 とさらに続き、その後に入力欄がポップアップしてきた。


 こうなったら『城が欲しい』と入力してみる。


「まぁ、ついに領地に城を⁉ あら、違うのですか? でも、そういうことでしたら城の設計図を差し上げますので、ご自分で作られたらいかがですか?」


《クエスト達成ボーナス クラフトメニューに『城』を追加しました》


 なにそれ?

『ゲーム』さん、融通が利き過ぎじゃありませんか?

 いや、助かるんだけどもさ。

 とりあえずクラフト台に行って材料確認。

 木材、石材、鉄……がとにかく大量。

 鉄は商業ギルドで交渉するとして、木材と石材は外で集められるかな?

 木はともかく石は石切り場とかみつけないとだめか。

 ……場合によってはダンジョンの壁を切るとか?

 いけるか?

 やってみるか?

 魔導工房が完成するまで七日はあるわけだし。


「よし、やるか」


 チートしまくってやるぜ。


「そういうわけで、城を作ろうと思う」

「……すまない。あなたが何を言っているのかわからない」


 ソウラに報告に行くとひどく痛ましい顔で首を振られてしまった。

 やめて、かわいそうな人を見る目はやめて。


 ここはとある宿屋。

 ソウラや生き残った役人たちは宿屋を借り切って臨時の役所にしている。


「いや、本当に、本当に造るから」

「だから、さすがにわけがわからない」

「とりあえず、なんとかするから。石がたくさん採れるところを教えて欲しい」

「石?」

「そうそう。できれば人がまだ手を付けていないところがいいなぁ」

「それなら……」

「あ、あるんだ」

「地図は……まだみつかってないな」


 なにかを指示しかけて苦笑したソウラは俺の手を引っ張って窓から宿の屋根の上に上った。

 それから街の外を指差す。


「冒険者たちに調査してもらって、あの方角に良い石切り場になりそうな場所を見つけている。ただ、まだ魔物の勢力圏内だ。今回のことで向こうの魔物国家も混乱しているだろうが、危険なことには変わりない。地図があれば正確な場所を教えられるんだが」

「大丈夫。木材も必要だから伐りながら探すから」

「本気なのか?」

「本気も本気。だから、あの場所はきれいにしておくだけでいいから。だめでも最悪、資材を持ち帰ってくると思っていたらいいんじゃないかな?」

「そういうことなら……だが」

「まぁまぁまぁ」


 なんだか遠慮されるけど、押し切った。


「父親として、この状況から逃げるわけにもいかないんで」

「しかし、まだ子供ができたと決まったわけでは……」

「大丈夫」


『孕ませ力向上+2』の力を俺は信じる。


 次は商業ギルドに向かって鉄を大量購入。

 すぐには用意できないというので準備だけしておいてもらう。


「おまかせください。必ず用意いたします」


 対応してくれた偉そうな人の態度が前と違う。

 大量購入の上客だからかな?

 あまり気にせずに商業ギルドを出て門を抜ける。


「いってらっしゃいませ!」


 門番が居住まいを正して送り出してくれた。

 ……気のせいじゃないかなぁ。

 いや、気にしないようにしよう。


『ゲーム』から斧を取り出してソウラに示された方角に向かっていく。

 時々、よさげな木を見つけては三打で切り倒して回収しつつ向かう。

 ちょこちょこと魔物の気配があったので、試しにと『覇気』を使ってみる。

『威圧』なんかが合体してできたスキルなんだけど、予想通りに魔物たちが近寄らなくなった。

 それだけじゃなくて、鳥がバサァと木々を揺らして一斉に飛んでいき、小動物が草や落ち葉を揺らして逃げていった。


「うわぁ、すごぉ」


 予想以上の効果だ。

 すごいんだけど、なんだか嫌われたような気がして微妙な気分になった。







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