130 対集団戦
『ゴブリンソルジャー:一般兵士。雑魚と侮るなかれ雑魚』
『オークバルーン:腹にガスを貯めてちょっと浮くよ。火気厳禁』
『コボルトトレーナー:動物使い。たくさん連れているときは注意。もふれ!』
『鑑定』の仕事は本当によくわからない。
まじめに忠告したいのかそうでもないのか。
考えながらこっちはメイスを振るう。
『対物結界』『対魔結界』『身体強化』『身体強化』『竜息』『竜息』『打撃強化』『打撃強化』
たまねぎ装備の効果は絶大だ。
鉈で藪を払って森を進んでいくような感じでメイスを振るえば魔物がボンボン潰れたり破裂したりする。
人目がなければ『夜魔デイウォーカー』も使ってたんだけどなぁ。
スキルもいろいろ手に入ってたんだろうけど。
あ、でも腹にガスを貯めるスキルはいらないな。
腹が破れてまさしく風船の如く飛んでいくオークバルーンを見るとそう思う。
周りがなんか臭いし。
これ、ほんとに火を使ったらひどいことになるんじゃ?
そんなことを考えながら戦った。
別に注意力が散漫になっていたわけではないと思う。
その証拠に敵からの攻撃は盾以外で受けていないし。
時々『盾突+2』で前方の魔物を吹き飛ばし、空間を作りながら進んでいた。
だけどまぁ、視野狭窄になっていたかと言われればそうかもしれない。
「あれ?」
なぜなら、気が付くと俺は魔物の軍のど真ん中に一人でいたから。
どうやら能力に任せて突き進んでいた結果、突出してしまったみたいだ。
「ああ、しまったな」
††バッシュ††
「あいつなにやってんだ?」
アキオーン……たまねぎのことだ。
すさまじい勢いで魔物どもを蹴散らしていくのはすごいんだが、周りとの歩調を合わせるでもなく突き進んでいった。
気が付けば遠くの方で孤立している。
いや、すごいんだけどな。
すごいんだが、あれではそのまま包囲されておしまいだろうに。
「もしかして、他の冒険者と協力したことないのか?」
そんなことあり得るか?
バッシュとて今は一人で活動しているが、最初から金等級の強さを持っていたわけではない。他の冒険者と協力しながらいろんな依頼をこなしていくうちに強くなり、金等級をもらった。
たまねぎを見ていると、そういう段階をすっ飛ばしたかのような迂闊さを発揮しているように見える。
「バッシュ」
「おお」
呼びかけられて振り返ると、鋼の乙女……ソウラが兵士を連れてやってきた。
「どうだ?」
「壁を崩されたのは驚いたが侵入は最小だ。大半は押し返せた。あいつのおかげでな」
「あいつ?」
バッシュが指差すが、すでにたまねぎの姿は魔物軍の中に埋もれてしまっている。
首を傾げるソウラは、顔を隠していた兜を外している。その美しい顔が怪訝に揺れるのを見てバッシュは笑った。
「たまねぎだよ」
「なに! まさか突っ込んだのか?」
「ああ」
「大丈夫なのか?」
「わからん。止める間もなくだったからな」
「まさか、お前以上の馬鹿がいたか」
「ひでぇなそれ」
バッシュの抗議を無視してソウラはなにかを考えている様子を見せた。
魔物軍は真っ先に動いてくれたバッシュたち冒険者の健闘の甲斐あって空いた壁から押し返せている。
それに穴というわかりやすい道ができたせいか、魔物軍のほとんどがここに集中してきたせいもあって逆に守りやすくもあった。
とはいえ、全てがここに来たわけでもない。
「陛下!」
考え事をするソウラに伝令兵が駆け寄ってくる。
「北から翼のある魔物が集団で襲ってきており、苦戦しております」
「そうか。バッシュ、頼めるか?」
「おう、任せとけ」
冒険者連中を軽く見まわして遠距離攻撃が得意な顔見知りを何人か見繕って声をかけると、バッシュは北へと移動した。
他の連中が城壁に上がって移動する中で、バッシュだけは街に戻る。
「よっと……」
ジャンプ一つで建物の屋根に上がりそこから北へ向かうと、すぐに目標を視界に収めた。
「ヒエマか」
翼のある猿だ。
細い体だが飛行能力が高く、鎧を着た冒険者だって抱えて空に上がることができる。
そして高空まで上がってから落として殺すのだ。
他にも巨大カラスのハードクロウもいる。トレーナー系の魔物が近くに潜んでいるらしい。
「俺の愛の巣(予定)に入ってくんなよ」
鋼の乙女にしてザルム武装国の女王ソウラとの甘い日々を夢想するバッシュは屋根伝いに進みながら『ヴァルキリーストライク』を連続で放つ。
「ギギッ!」
「ガアァッ!」
魔物たちがエネルギー槍に呑まれて悲鳴を上げる。
「はん! 楽な相手だ」
とはいえ空中から来られるのは届かないところから攻めてくる、対処できる手段が限られるという意味で厄介な敵だ。
こんな敵にバッシュという駒を使わなければならないという意味で面倒だ。
「……なんか、嫌な予感がするな」
本隊はいつも通り馬鹿みたいに正面突破をしてきているというのに、飛行可能な魔物だけが別方向から攻めてくる。
これはまるで、兵力の分散を狙っているかのようではないか?
しかもバッシュが到着したのを確認したからかのように、飛行魔物は街のあちこちに散らばり始め、それを追わなくてはならなくなった。
「まさか……な」
バッシュの胸中に嫌な予感が湧いたが、役目を放りだせないのもまた事実。
舌打ちを吐きながら、追いかけまわすしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。