107 ファウマーリ様に報告
商業ギルドでの用事が終わると冒険者ギルドにも顔を出しておく。
叡智の宝玉の件だ。
商業ギルドも冒険者ギルドも追加の情報はなかったので、オクの里で聞いた話を伝えておく。
ピナという実力者が以前に持っていた。いまはもう老婆になるぐらいの昔だけれど、かなりの実力者だったので、どこかで話が残っているかもしれない。
という内容を両方に伝える。
「あ、おっさん」
冒険者ギルドの奥から出てきたところで声をかけられた。
すでに夕方で、日雇い冒険者たちが依頼完了の報告と報酬をもらう列ができている。
声はその列からした。
子供たちだ。
「おっさん、もう薬草買っていないのか?」
最初の薬草を買っていた子たちではないが、何度か買ったことのある子たちだ。
そういえば、最近は買っていなかった。
「ああ、明日なら買うよ」
ファウマーリ様を探して森に入らないといけないし。
「ほんとか?」
「ああ、夕方に森でね」
「わかった。知り合いに伝えてもいいか?」
「いいよ」
約束を交わしてから冒険者ギルドを出て宿に戻る。
宿はそれなりに質のいいところを最近は借りている。
壁が厚くて隣の音が聞こえにくいし、ふかふかのベッドがある。
それだけといえばそれだけなんだけど、清掃も行き届いていて居心地がいい。
晩御飯にとんかつ定食を食べて、はたと思った。
ファウマーリ様に会うということは、もしかして祖王も出てくるのだろうか?
だとしたら、またなにか無心されるなぁ。
それは別にいいんだけど、欲しいって言われたものがなかったら困る。なにしろ向こうは祖王様だ。なんとかなにか言われる前に……ああ、そうだ。あれにしてみよう。
思いついたので『ゲーム』を起動。
いつものことをこなし終わった後はひたすらにそれをこなした。
さて翌日。
久しぶりに大袋を抱えて朝から森に行く。
門を出たところで同じく森に向かう子供たちの中の何人かが……。
「あのおっさんだ」
「ほんとに来た」
「夕方な」
という声がいくつも聞こえてきた。
目が合った子たち、質問してきた子たちに「これぐらいの袋いっぱいで1100Lね。ズルしたり足りなかったら買わないよ」と言っておく。
「夕方頃にここら辺にいるから!」
と最後に大声で周りに伝えてから森に入る。
薬草は昼前に集まり終わった。
前よりうまくなった気がする。
これでどうして『薬草採取』というスキルを取得できていないのか不思議だ。
「あれ? もしかして?」
ふと、気が付いた。
周りに誰もいないことを確認して『樹霊クグノチ』を起動、蔓を一本だけ出す。
薬草があるところの地面に突き刺し、『植物操作』を使う。
地面に刺せばその辺りの雑草が繁茂する。
つまり?
その場で薬草が群生した。
「うわぁ……これまたやばいなぁ」
子供たちから買う必要ないね。
「……うん、見なかった」
なにかこう……いざという時の秘策的な扱いにしておこう。
子供たちから薬草を買ったからって、俺が損してるわけじゃないからね。
それからは『ゲーム』をしたり、スキルの新しい使い方を考えたりして過ごし、夕方になって約束の場所に移動。
子供たちが三十人ぐらいいた。
「おっさん、ほんとに買い取ってくれるのか?」
「まかせとけ」
さすがにこの数はびっくりしたが、気の強そうな子にそう聞かれて受けて立つ。
「最初に言っとくけど、袋いっぱいじゃなかったり、他の草がたくさん入っているのは買わないからね。それじゃあ、並んで」
『鑑定』を使えばそういうのはわかるので、順番に対処していく。
袋を受け取って、『鑑定』して、合格ならお金を渡して、その後にマジックポーチに中身を入れてから袋を返す。
三十人中、不合格だったのは五人。
みんなけっこうまじめに集めていた。
その五人もふまじめだったからというよりは慣れていないからというのが理由っぽかった。
その子供たちの仲間が知恵を出し、その場にぶちまけて違う草をより分けて改めて袋に入れると三袋分になった。
というわけで合計二十八袋。
30800L也。
懐を潤わせて帰っていく子供たちを見送り、俺はまた森に入っていった。
薬草を採るには深すぎるぐらいに足を踏み入れてから……。
「ファウマーリ様、いらっしゃいませんか?」
と呼びかけながら獣道を伝って森の奥に入っていく。
「どうした?」
ある段階で、ふらっと木々の隙間からファウマーリ様が姿を現した。
「ちょっと、ご報告とお願いが」
「む? まぁよい。こちらに」
やはりファウマーリ様とサマリナは似ているなと思いつつその背を追いかける。
しばらくすると辺りの気配が急に変わった。
木々と雑草の密度が一気に減って、辺りも明るい。
視界の端をふわりと通り抜けたのは、蛍のように宙を泳ぐ光の球で、それがたくさんいて周囲を照らしていた。
目の前には空き地のように空間が広がっていた。
それを囲む木々にも手が入っている様子だ。
なにか、お屋敷の庭園のような雰囲気がある。
「ん? おお、アキオーン!」
空間の中央に東屋があり、そこに祖王がいた。
出っ張ったお腹を窮屈そうにして座っている。
「まぁ、こっちに来い」
呼ばれて東屋に近づくと、そこにはチェスらしきボードが置かれ、駒が配置されていた。
「チェスですか?」
「あっちとはややルールが違うがな」
「はぁ?」
「それで、どうしたんだ?」
「ええと、この手紙を預かったのと、その経緯を説明しようと」
「手紙?」
「はい、これです」
二人の視線を受けながら、俺はサマリナから預かった手紙を取り出してチェスボードの隣に置いた。
「ふむ。封蝋はポートピナ家のものだな。当主印ではないから子か?」
「サマリナ……様です」
「はは、呼び捨てでいいぞ」
「はぁ」
「それで?」
座るように促されたので、空いているチェスの対面は避けて座る。
ファウマーリ様が一度姿を消し、戻ってくるとその手にはお茶のセットがあった。
お茶をもらいながらサマリナとイリアと関わった話をする。
「ああ、あの攫われ娘か」
話し終わったところで祖王がそう言った。
「魔物使いの才は気づいていたが、なるほど、そのようなことが」
と言ったのはファウマーリ様。
彼女の体質のことはやはり調べていたようだ。
「なるほどな。たしかにこのまま城に持っていっていたら、面倒な取り調べがあったかもしれないな。こっちに来たのは賢明だ」
「はは、どうも」
「だが、とりあえずはもう一度は喋ってもらわないといけないだろうな」
「ええ?」
「心配するな。すぐだ」
祖王がニヤリと笑うと、俺が来たのとは別の方から誰かがやって来た。
「む、お客人ですかな? 珍しい」
東屋に近づいてきたのは長い髭を蓄えた威厳のある人物だった。
壮年の男性の重みのある視線に、思わず背筋を伸ばす。
「冒険者のアキオーンだ。アキオーン、こやつはベルサリ。今の王だ」
「うへぇ」
思わずそんな声が出て、椅子から下りて跪いた。
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