最近の酒のイメージはというと、もっぱら、酔うための道具。安酒、飲み放題、二日酔い、、、からの酒浸り、酒乱と今も昔も、良い言葉より悪い言葉がひしめき合っている。
それでもなお、酒の力をかりて、なんて言葉があるように、一部では神聖であり、自分にはない一面を作り出す魔法の飲み物。
それはアルコールの成分で体内にホニャララと影響してなどと理屈で論破されれば、それまでの事だが、酒に頼る人間は少なくない。酒には力があると言ってもいい。
その力あるものをどう使えば、みんなが幸せになるか?と、この作品はその力の使用についてを模索した執筆者のなりの解答であり、用法容量を稚拙に考えた素敵な作品だと思います。
と、堅苦しく評価した上で、とりあえずは、無性に酒が飲みたくなりました。自分はもっぱらのシングルモルト好き、ピート香つよめのラフロイグあたりが大好きです。
『我は汝のそばにいる。酒場という酒場を粉砕しろ!』
かつて、アメリカの禁酒法時代直前、神から受けた啓示(ついでにアル中の夫への怒り)で、破壊活動のパイオニアとなった女性が存在しました。讃美歌を歌いながら、まさかりを手に街中の酒場を襲撃した彼女にくらべれば、さすがは我が日本国です。
主人公の酒匂好男(さこうよしお)三十八歳は、完全に合法的な被選挙権を行使し、酒類の非合法化をマニフェストに掲げて、逆に破壊活動家にSATSUGAIされるという、実に穏便なエンディングを迎えます。
そして皆さまお馴染み、神さまとの談合を経て、異世界に転生します。なんの因果か、転生した先は酒屋の少年ヨシー、チートスキルも元の地球世界から一般販売の酒類を召喚するというものでした。
とは言え、チートスキルの恩恵で魔法効果が付与されるのか、はたまた異世界人は化学的成分組成が地球人に似て非なる名状し難い存在なのか、ヨシーと仲間たちは、続々と召喚される缶チューハイや缶ビールでパワーアップ、モンスター相手に無双します。召喚すればするほど、地球世界の酒類は、あるはずの在庫が消えるという一石二鳥の初志貫徹、困りものですね。
これからの年末年始、クリスマスにシャレオツなブルゴーニュワインとか(ブルゴーニュを地図で指せません。多分フランス)、元旦におとその純米大吟醸とか、美味しいお酒に感謝しつつ、読まれてみてはいかがでしょう。
もし、あったはずのお酒が見つからなかったら、それは彼の仕業かもしれません……。