それでも未来は掬われた――少年の日常と少女の非日常の邂逅の、その先。

一人の少女が電車に飛び込む。その腕を、掴む。少女は涙を浮かべてお礼を告げた。
彼女が知る由もない、ある言葉を口にして。

この、駅のホームで始まる少年の日常と少女の非日常の邂逅――を目にした時、私は思わずパタリとページを閉じました。「じっくりと読もう」
例えば店先で覗いたページをすぐさま閉じて、家に持ち帰るように。
そうして彼らと同じように、かけがえのない一夏の時間を味わうようにゆっくりと読み進めました。

プロローグから予感する儚さ。挿し込まれる日記に秘められた心中。
少年・響と二人の学友と、少女・海月。この四人が紡いだ一夏は、幸せで、だからこそ切ない、人生の瞬きでした。――決して忘れることのできない。

海月はその名と同じように「くらげになりたい」と口にします。それが一体何を意味するのか……冒頭に口にするある言葉と共に不可思議で、謎めいたその意味は、この物語のテーマとなって解き明かされていきます。

情景・心情の描写は上手だとか丁寧だとか技巧的なそれ以上に、とても美しい。情景と心情を一つに表す絵画を見るような、一つに言い表せない感情が浮かびます。

この少年少女達の一夏を、プロローグのその先を、ぜひ見届けて頂きたいです。

その他のおすすめレビュー

る。さんの他のおすすめレビュー380