刹那の時間を、胸に仕舞って 第3話
その日の昼休み。
食堂でいつものように四人がけのテーブルに腰を下ろした僕たちは、今この瞬間の幸せを噛み締めていた。
僕と拓馬が立ち会いの元、海月は「昨日は突然怒ったりしてごめんなさい。」と頭を下げると、静香はへらっと笑って「もう忘れちゃった。何のこと?」とあっけらかんと返した。
海月はほっと胸を撫で下ろしたのか柔らかい笑みを浮かべ、その姿をみていた拓馬が「まあ、めでたしめでたしだな。」と言った後大きな声で笑った。
僕も笑みを浮かべずにはいられなかった。
僕たちなら大丈夫だ。
ちょっとやそっとのことで僕たちの関係が壊れたりしない。
きっと大人になっても続く腐れ縁ってやつなんだと思った。
「あっそうだ。おばあちゃんにも謝らなきゃ。」
カレーパンを両手で摑み、口に運ぼうとしていた海月が唐突に口を開く。
「そうだね、私も謝らなきゃ。おはぎもご馳走になったのに家の空気悪くしちゃったし。」
「ほんと最悪だ…。今日みんなでいこ?」
頭を抱えてたまま机に顔を埋めた海月が上目遣いで僕たちを見回す。
「あーごめん、今日は俺パス!」
左右の手のひらをぴったりと合わすと同時に頭を垂れた拓馬に二人の視線が集まる。
「なんで?何か予定でもあるのか?」
僕は隣に座る拓馬にちらりと視線をやって、パックのカフェオレを口にする。
「今日バイトの面接なんだよ、ごめんな。海の家のバイトでさ、夏休みにぴったりだろ?真っ白な砂浜に青い海、水着のお姉さん達に囲まれて最高じゃん!」
天を仰ぎ冷めやらぬ熱を演説するかのような口調で話す拓馬に、一瞬だけ全員が口を閉ざした。
「バイトするのはいいけど、動機が不純なのよ!」
「痛っ」
静香の放った口拭き用の紙を丸めた玉が拓馬の頭に直撃した。
静香の言うとおり確かに動機は不純だが、なんだか拓馬らしいなと思った。
中学の時から思い立ったらすぐ行動する性格の拓馬はいつも僕の前を歩いてる。
太陽のように明るく照らされた道を僕は後から追いかけてきたのだ。
「いいじゃん、海の家!拓馬が受かったら皆で行こうよ!」
話し声や笑い声、食器の重なる音など喧騒に包まれるこの空間に僕は明るい声を放つと、皆の顔から笑顔が溢れた。
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