第六十一話 種馬の資格

『若い殿方の学生服姿は凛々しく感じますわ。フローリアンさんにペーターさん♪』


『恐悦至極に存じ上げます。男爵バローン夫人様』


『ありがとうございます。男爵バローン夫人様』


コレットと買い物を済ませてから洗濯屋に預けていた叡智ヴァイスハイト学園の学生服を回収して、リューベックの中でも最高級の宿泊施設ウンタークンフト御逗留ごとうりゅうあそばれていられる男爵バローン夫人様の御招きに応じて晩餐ばんさんの席に着いていますが。私とペーターの十四歳の男子学生二人の事を、エミリーさんと同い年の男爵バローン夫人様は非常に御気に召されていられるようです。


『娘のアーデルハイトは愛嬌は無いのですけれど、幼い頃から非常に頭の良い子でしたわ。そのアーデルハイトよりも成績が上位の殿方の生徒が二人いると聞き及んだ際には、寝る間も惜しんで必死に勉強をしているような学生かと思いましたけれど。フローリアンさんとペーターは良い意味で私達夫妻の予想を裏切りましたわね♪』


夫妻という事は、御夫君であらせられる男爵バローン閣下も、私とペーターの事は調査済みだと男爵バローン夫人様が御認めになられました。


叡智ヴァイスハイト学園では、御息女の令嬢フロイラインを始め数多くの良き学友に恵まれて、満ち足りた学びの場にて勉学に勤しむ事が出来ております。男爵バローン夫人様』


帝国の辺境地帯である封建制度の社会で生まれ育ち身に付けた私の所作に対して、男爵バローン夫人様はしつけの行き届いている調教済みの軍用犬をでる飼い主のような眼差しで御覧になられましてから、満足気に御頷きになられますと。


『やはりフローリアンさんが良いですわね。後で男女二人きりでお願いしたい事がありますわ♪』


『何なりと御用命下さい。男爵バローン夫人様』


男爵バローン夫人様の今宵の御相手を務める種馬として、十四歳の魔法使マーギアーいの私は合格したようです。

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