第三十七話 今後の争いを防ぐ最も確実な方法

『私とエミリーさん三人家族の身を案じてくれて感謝をします。ハイディ』


『本当はフローリアンに事情を悟られたくは無かったのだけれど、仕方ないわ』


表門から攻め込んだ私と、裏門から攻め込んだハイディと、外で逃げ出す盗賊ロイバー団の一員が居ないか見張りをしていたペーターの三人で、砦内の最上階にある首魁しゅかいが使っていた部屋に集まり話しをしています。


『フローリアンが伯爵グラーフ閣下の軍団に加わり陥落させた交易拠点だった街から、隠し通路を使い逃げ出して来たのが、地下牢に捕らわれている淑女マドモアゼル従騎士スクワイアの男女なんだ。ハイディ』


私とペーターの二人には事情を話さなかったハイディでしたが、もう隠す意味が無いと口を開きまして。


『貴族諸侯同士による社交界で以前に御会いした事があるわ。伯爵グラーフ閣下は御領主であらせられる子爵ヴァイカウント閣下が御不在の時を狙われて、子爵ヴァイカウント領の交易拠点となっていた街を攻めて陥落させられたけれど。街に残っていられた御息女の淑女マドモアゼルは、護衛の従騎士スクワイアだけを伴い陥落する前に隠し通路から脱出されたようね』


子爵ヴァイカウント家の御息女である淑女マドモアゼルが逃亡されようとしていたのは、リューベックで間違い無いと思われます。


『街で暮らしていたエミリーさん三人家族と、一ヶ月間に渡り最前線の城壁近くで戦った私の顔は、淑女マドモアゼル従騎士スクワイアは見ていて覚えている可能性がありますね』


淑女マドモアゼルが御父君の子爵ヴァイカウント閣下とリューベックで合流されますと、傭兵ゼルドナーとして伯爵グラーフ閣下に雇用されて街を陥落させるのに協力した私と、リューベック参事会の議員でもあるペーターの御父君の屋敷で住み込みの家政婦として働き出したエミリーさん三人家族は、今後なんらかの報復を受ける恐れがあります。


『これは、命を奪うしかないかなぁ…。フローリアンは自分の身は守れるけれど、新天地で生活を再建しようとしているエミリーさん三人家族、特にまだ六歳で幼いソフィーちゃんの身の安全を考えれば。根元魔法の原子核崩壊アトーム・ツェアファルで消滅させて、この砦には居なかった事にするのが最善かも知れないね』


優しい性格をしているペーターは、幼いソフィーの身の安全を最優先した考えをしてくれます。


伯爵グラーフ閣下による攻囲戦に加わったフローリアンが救い出したエミリーさん三人家族が、リューベック参事会の議員でもあるペーターの御父君の屋敷で住み込みの家政婦として働いていると知れば、子爵ヴァイカウント閣下は間違いなく裏で伯爵グラーフ閣下とリューベック参事会がつながっていたと考えられて、報復を企てられるはずよ。淑女マドモアゼル従騎士スクワイアには消えてもらうのが、今後の争いを防ぐ最も確実な方法だわ』

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