巧みな語り口で誘われる、ある殺し屋の独白、その他。

生きるために〈殺すこと〉を選んだ殺し屋・ナイツは、そのために常に虚ろなものを抱え、読書と喫茶を好む孤独な暮らしをしていた。

舞台は現実に近い、ただし異能者が存在し、暗躍する世界。

ナイツが殺し屋として常に剣の刃を渡るような生をつないでいる町。そこでの現実を描く端正な文体と語り口が巧みで、少しずつ引き込まれていく。
また、「襯衣(シャツ)」、「木卓(テーブル)」、「閨秀作家(けいしゅうさっか)」等々、選ばれる単語も〈少し違う世界〉のディディールを支える効果となっている。

ナイツが人を殺すのも〈他人の思惑〉、ナイツが孤立しているのも〈他人の思惑〉。その中で彼がある想いのために変わっていく。

とにかく命のやり取りという即物的な結果を生んでいるのは、ここではそもそも〈人間の心〉。

その心が織りなす繊細な人間関係の部分も読みごたえがあり、血なまぐさい場面なのにどこか乾いている。独特の世界観を楽しみつつ、ナイツの選んだ結末をどうぞ見届けてください。

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