僕の『義妹』が増えるらしい

僕と天使の日常のはじまり

朝目覚めると青い瞳がこちらを覗きこんでいた。

僕の愛しい『義妹』が昨日はじめて抱き合ったままの姿で僕の顔を観察している。


「おはようユキナ。体は大丈夫?」

「おはようお兄ちゃん。ちょっと変な感じするけど大丈夫」


朝の挨拶をすませるとユキナはさっさと起き上がりシャワーを浴びに行った。

いつもより素っ気ない態度は照れているからだろう。なにせ顔が真っ赤になっていたのだから。


少々気怠い体を起こし時刻と日付を確認して憂鬱になる。

今日はGW明けの平日、学校が再開する日だ。

ユキナとのことを同級生たちに知られたら間違いなく針の筵になるだろう。

なにせユキナは学年一の美少女でクラスの人気者だ。

僕がクラスメイトの立場なら嫉妬せずにはいられない。

考えただけで胃が痛くなってくる。

朝食の間に『義妹』になったこと、一緒に住んでいることをみんなに内緒にしたいとユキナに相談したが、聞く耳持たず断固拒否されてしまった。


「ダメだよお兄ちゃん。ちゃんとみんなに知っておいてもらわないと」

「いやでも、周りの嫉妬とか怖いんだが」

「へーきだよ、へーき。ユキナはお兄ちゃんと学校でもいっぱいイチャイチャしたいんだもん……」

「いや、それは……」

「お兄ちゃんはイヤなの?」

「嫌じゃないけど……」

「じゃあいいじゃん。ユキナはお兄ちゃんの『義妹』になったこと公表してみんなに自慢します。はい、決定。この話おしまいっ」


あまりにもユキナが頑なで、説得のしようがなかった。もうこうなったら開き直るしかない。


「「いってきまーす」」


二人並んで家を出ればユキナがナチュラルに腕を組んでくる。

学校に近づくにつれて向けられる視線やひそひそ声が多くなる。

開き直って全て丸っと無視して教室まで突っ切った。


教室に入ると僕たち二人に教室中の視線が突き刺さり、しんと静まり返る。

ユキナは異様な空気など気にもせず僕の腕を引っ張って教壇にたつと高らかに宣言した。


「えー、この度私、冬木ユキナは四季めぐる君の『義妹』となりました。学校には旧姓の冬木で通うのでそっちで呼んでください。

 お兄ちゃんともども今後ともよろしくお願いします!」


ニッコニコでそれだけ言うと僕の顔をじっと見つめる。

え、これもしかして僕も何か言うの?


「あー。まぁ、そういう訳なんで、よろしく」


大騒ぎになった。

僕は大急ぎでユキナの腕組みから抜け出して、クラスメイトに群がられる前に自分の机へと逃げ出し突っ伏した。

教室の前方ではクラスの女子たちがユキナを囲んでキャーキャーと黄色い声をあげている。


「よう。朝から随分とアツアツだったな」

「勘弁してくれ。こっちは嫉妬した暴徒に殺されないかヒヤヒヤだったんだ」


ニヤニヤと声をかけてきた派手な金髪にピアスやらイヤーカフやらをつけたチャラ男に力なく言葉を返す。

この男の名前は愛原剛。音楽一家の長男で、自身も実力派のベーシストとして界隈ではそれなりに名が知られているらしい。

チャラい見た目はバンドの雰囲気作りの一環らしく、見た目に反して真面目な僕の親友だ。


「うちのバカンスについてこないと思ったら、まさか学校の天使を『義妹』にしてるとはなぁ」

「お前の家のはバカンスじゃなくて巡業だ。去年親父さんの付き人扱いでこき使われたの忘れてねえからな。『義妹』については完全に事故だ」

「事故で『義妹』ができるとかどんな状況だよ…………まぁお前に家族が出来たんなら良かったよ」


小学校からの付き合いのこの親友は僕の家族コンプレックスを心配していてくれたらしい。

友達思いのいいやつめ。


「それはそうと、同棲してることにはツッコまないんだな」

「ん?『義妹』と同棲するのなんて当たり前だろ?」

「そうなのか?」

「そうだろ」

「そうなのか……」


どうやら当然のことらしい。

少々困惑していると我が親友はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。


「んで、もうやったんか?」


ぶん殴ろうかと思った。

クソ下世話な質問を黙殺するとこの友達思いで無駄に察しのいい親友は何かを察したらしい。


「え?マジで?おいおいおいおい。お前不能じゃなかったんだな!」


ぶん殴っておいた。

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