(10)
28日。
私、中野葉月はいつもの四人組で下校しているところだった。
空はすっかりと夕焼けに染まり、暖かな空気が私たちを包み込んでいた。この通学路もすっかりと人の気配を無くし、私たちの歩く音だけがカタンコトンと楽しそうに響いている。
どこまでも広がる淡い光景を追っていくと、前を歩く三人の後ろ姿が目に入った。
「ちょっと、みんな歩くの早くない?」
「葉月が遅いだけだよ、なあ秋宮?」
「とんでもにあキラーパス止めて。どっちにしろ、いちゃもん付けられる未来しか見えない」
「なんか遠回しにディスられてるね、私」
はー、ほんと秋宮君はどこかひねくれてる。
接すれば接するほどだ。
「あっ、そうそう!」
そんな会話を交わしていると、ふと楓ちゃんが前に立って手を合わせている。
「来週の日曜日さ、中央公園で桜祭りやるじゃん!」
「ああー……毎年やってるあれか。まあ俺は一緒に行く友達がいないから行ったこと無いけど」
「秋宮、それ人生の9と4分の3損してるぞ」
「俺はホグワーツ行き確定か」
「はいはい、話聞くー」
「「すんません」」
楓ちゃんに怒られて二人してうなだれる。この二人もすごい仲が良くなった。一見対照的ななのに、逆にそれがいいのかな?
「折角こうやって四人仲良くなったんだし、予定が合えば、今年はみんなで行こうよ! そしたらきっと良い思い出になるはずだよっ!」
やや興奮気味になって、楓ちゃんは前のめりで私たちの視線を捉える。
茶色に柔らかに染まるボブの髪がふわりとなびいて、私の見る景色に溶け込む。
「私は予定空いてるから、賛成、かな。なんか楽しそうだし」
予定通り、自然体に楓ちゃんの提案に乗る。
「光はどう? 行かない?」
「勿論行くに決まってるさ。ちょうど部活もオフなんだ。行かない訳にはいかないね!」
「やったー」
「おっ、珍しいなー。葉月が素直に喜ぶなんて」
「たくさん人が居た方が楽しいでしょ」
「確かに、な」
思わず本音が出てしまったものの、無事光も参加するということでホッと一息つ
く。
「それでー、薪君は絶対行けるからー……」
「え、ひどい。そんな暇だと思われてるの、俺?」
「だって暇でしょ?」
「はい。すいません」
これで四人揃って、花祭りに行くことが確定した。
「何年ぶりだろう? お祭りなんて」
「確かになー。小学生くらいまでは葉月と毎年行ってた気がするなー」
もうそんなに時間が経ったなんて……自分でもびっくりしちゃう。
「……あっという間だねー。あの頃から」
「なに、急に寂しそうにしてんだよ葉月。今年楽しんで思い出に上書きすればいいだろ?」
なにそれ。上手いことでも言ったつもり? そっちこそらしくないよ。
でも、なんだかその様子がおかしくぷくぷくと笑ってしまう。
「おい、なに笑ってんだ葉月」
「ううん。なんでもない」
そう、ポツリと呟いてから、ありったけの笑顔を光に向けて
「たくさん遊んで、たくさん楽しもうね、光!」
ありったけの想いをこの言葉に乗せた。
――ねー、気付いてる? 光?
「あ、ああ。楽しもう」
そう言って光が珍しく顔を赤らめたのは、この淡い夕焼けのせい?
なら私も今どんな顔をしちゃってるのかな。もしかしたらすごい照れてる顔が光に……そう思うとすごい恥ずかしい。
でも、今なら全部この光景のせいに出来るから。もう少しだけ。
「……光……待っててね……」
「……? なんか言ったか葉月?」
「なんでもない!」
漏らした瞬間、すぐに空気に溶けてしまったその言葉。
本当に伝えるのは最後の最後で良い。
せいぜい今だけは最後の「幼なじみ」を堪能しておかなくてはならない。
「お~い、二人とも~! 歩くのおせ~ぞ~」
秋宮君の声がした方を見ると、いつの間にか二人ともあんな先へ。
肩を並べて歩いている。
「う~ん。分かった~。すぐ行く~!」
まるで、言えない想いがあふれ出さないよう、代弁するかのように、ありったけの声を出す。手をメガホンにして乗せた声がこの慣れ親しんだ街にふんわり反射する。
「行こっか、光」
「ああ」
――私たちは明日への方向へと、それぞれ、走り出した。
足取りは軽やか。
気分は上々。
ホップ、ステップ、ジャンプ。
あなたとなら、そう想える。
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