第210話・ゴキブリ退治・その五

「ジョニーさんもオレ達も、少し買い被り過ぎてましたかね。殿下のこと」


「アレックス殿!」


「国を治める苦労も常識もオレは知りませんよ。ただ筋を通すべきところを通さない人に期待したのは間違いだったのかも」


 茶番劇なのは理解してるよ。近衛兵や騎士を処分するには相応の手順や罪状が必要なのも。


 オレ達だけなら別に捕まっても構わないと思う。その気になればどうとでもなるんだから。


 ただ後ろで不安げな表情をする、子供達や初心者の人達に見せるべきものじゃない。


「誰の為の国なんです?」


 サミラス殿下と一緒に来た将軍や竜騎士は、オレを止めようとするが動けない。いやジュリアが動かさないと言った方が適切か。


 すでに戦闘体勢で、動けば遠慮はしないと暗に物語っている。




「そう言えば昔ばなしにあったね。勇者により国を救われた王が、勇者の人気に嫉妬して毒殺しようとして国を滅ぼされた話が……。帝国と勇者が戦えばどちらが生き残るかな?」


 しばしの沈黙の後にサミラス殿下は、突然この世界に伝わる昔ばなしを口にした。


 引く気はないと周りに示してるのか? というかまだ茶番を続けるのか。


 本気じゃないのは理解してる。この状況を少し楽しんで、あわよくば利用しようとしてるんだろう。


「殿下!」


 まるで金縛りにあったように固まった周囲が動いたのは、空に空中艦が現れたからだろう。


 当然ウチの艦だ。十隻ほどの小規模艦隊だけどこの世界の空中船とは船体の外観も違うし、異様にも感じる威圧感はあるだろう。


 エルが話に合わせて呼んだんだろうね。




「おっ、おっ、おまちください!!」


「全てはモール子爵の指示によるもの!」


「賊はあの近衛兵達です!」


「モール子爵と連中は、捕らえた初心者を密かに奴隷商人に売り捌いていて、闇で売買されております!」


「どうか、命ばかりは……」


 一触即発。帝都の間近に突然現れた艦隊に誰もが戦争になると感じたんだろう。


 先に耐えられなくなったのは、ダンジョンの守備隊の上級兵士達だった。


「ほう。賊は君達だったか」


 モール子爵とは、さっき股間を撃ち抜いて泡を吹いて倒れてる騎士のことだろう。


 ダンジョン守備隊の兵士達は武器を捨てて、土下座で命乞いを始めた。


「全員捕らえろ!」


 いつの間にかダンジョンの入り口がある場所には、帝国から軍が到着して包囲していたらしい。


 オレ達を賊にしようとした連中は、全員捕らえられて連行されて行った。




「素直に話を合わせてくれると思ったのに」


「時と場合によりますよ。子供達に茶番劇を見せるのは、趣味ではありません」


「大変なんだよ。陛下の回復祝いと私の皇太子就任の恩赦を出したばかりなのに犯罪を犯されたなんて、面子が丸潰れじゃないか。諸外国からの特使も来てるのに。頭が痛いよ」


「価値観の違いですね。オレ達もジョニーさんも目の前の信義と命を大切にしますから」


 一気に人が居なくなり静かになると、少年少女達や被害者のみんなはホッとした表情をしていた。


 サミラス殿下はやれやれと言いたげな表情で声を掛けて来たけど、やはりこの人も国の体裁を気にしていたんだね。


 まあ、当然か。人権もない封建主義の皇族なんだから。


 被害者には後で口止め料でも払って、済ませる気だったんだろう。


 悪いとは言わない。一国を治めるのは綺麗事じゃ済まされないからね。


 ただ配慮してやるほどの義理もないしね。


 後始末? 知らないよ。オレ達は。



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