第173話・皇帝とジョニー・その三
side・ジョニー
「やれやれ。随分と回り道をしたのう」
「しかし本当にこの計画でいいのか? なんか裏がありそうだぜ」
「それを炙り出す為にもやらねばなるまい? リスクを恐れては何も出来ん」
皇帝はサミラスの手紙を読みホッとした表情を見せた。
やっぱ自ら決断して立ち上がらねえと、一国の皇帝は任せられねえからな。
だが少しバルバドスって奴を甘く見すぎじゃねえか?
「そういえば、この国には今回のような事があった時に止めるような仕組みはねえのか? 実はそっちも探したんだが見つからなくてな」
「ある。初代様が遺した遺産がな。ただし何処に何があるかはワシにも分からぬ。初代様は強すぎる力は、いつか毒になると言い残していてな。皇帝や帝国が堕落した時に、それを止めるモノを遺したと言われている」
この世界に来て国なんて立ち上げた奴が帝政を敷いた訳は分からねえけど、やっぱり保険はあったか。
まあ言葉だけのブラフの可能性もあるが。
「全く。オルボアといい、バルバドスといいろくなことしねえな」
「オルボアはやはり何か動いておるのか?」
「そういや外の情報は知らなかったんだったか。オルボアは周辺の国にちょっかい出してるぜ。いろいろあって、上手く行ってねえみたいだがな」
「オルボアは二百年ほど前か。元は帝国の公爵だった家が独立した国じゃ。今では忘れられておるが、当時は独立ではなく帝国からの追放を、表向き独立という形にしたといわれておる」
「ほう。なんで追放されたんだ?」
「原因を作った公爵は、錬金術師であったと言われていてな。人の寿命をエルフのように、長命にする研究を密かにしていたらしい。その過程で人や獣人やエルフどころか、魔族すらも捕まえて人体実験を繰り返していたようでな」
「なんでそんなやつ野放しにしたんだよ」
「錬金術師の公爵は、幽閉して牢獄で生涯を終えたはず。追放したのは、その家族であったと記録にある。被害者は平民や貴族ばかりか、皇族も居たようでな。追放せねば収まらなかったらしい」
あまりの面倒なことばっかりについ愚痴っちまったら、皇帝からとんでもない話が出てきたぜ。
「これから話すことは他言するなよ。オルボアはワイマール王国で人を人為的に魔族化したらしい。それはあんたのいう研究と関係あるんじゃないのか?」
「人の魔族化じゃと? 馬鹿な……。確かに錬金術師の公爵は研究の過程で、人と魔族の違いそのものも研究していたはず。じゃが研究成果は、全て処分されたはずじゃ」
「よくわからんが、遺跡型のダンジョンを掘り起こしたって情報もあるしな。キナ臭い国だぜ」
「今の公王はワシも会ったことがない。表に出たがらぬようでな。前公王はそれなりに良識のある男であったが。だが前公王の死が突然でな。一時期暗殺説も流れた程だ。最終的に今の公王が継いで噂はそのうち消えたがな」
やれやれ、馬鹿皇子よりオルボアの方が厄介なのは変わらんのか。
まさか馬鹿皇子の背後にも、オルボアが居るなんて言わねえよな?
アレックス達と相談して、この一件が終わったらこっちからオルボアを攻めるべきかもしれねえな。
全く。次から次へと厄介なことばかり増えやがる。
この一件も、本当にこのまま終わらねえ気がするがな。
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