第105話・島の休日

「釣れないねー」


 翌日には村人のみんなに休養日と新しく酒場と遊技場と宿屋を作ることを提案したら、休養日には少し戸惑われたけど全部受け入れてくれた。


 特に酒場に関して喜ばれていて、やはりみんなで騒げる場所が欲しかったのだろう。


 休養日はさっそく今日第一回の休養日として、畑の水やりを終えたら休日にした。


 お酒も今日は多目に配ったので、気の早い人はお昼から飲んでるだろう。


 オレはなんとなく釣りでもしようかと、島の東部にある港で岸壁から釣糸を垂らしてるが釣れる気配は今のところない。


 先程からクリスティーナ様とロボとブランカが、近くで遊びつつ釣れるのを待ってるけど、こりゃしばらくは無理かもね。


「こうして釣りをしながら、のんびりするのがいいんですよ」


 ロボとブランカも時折遊んで遊んでと、尻尾をフリフリしながら近寄ってくるから撫でたりしてやってる。


 釣りは特別好きという訳じゃなかったけど、時々海が見たくなると行ってたんだよね。


 波の音を聞きながらぼんやりしてるだけだったけど。


 思えば遠くに来たもんだよ。


「ねえ。アレックスの生まれた国ってどんな国?」


「うん? 魔物とか居なくて平和な国でしたよ」


「魔物が居ないの!?」


「うん。悪い人は居ましたけどね」


「なんか考えられないわね」


 遊び疲れたのかロボとブランカは寝床となってるバスケットでお昼寝を始めると、暇になったクリスティーナ様がオレの生まれた国の話を聞いてきた。


 この惑星で異邦人は一種の都市伝説のような存在だ。


 様々な伝説や噂があり、話す人によって内容が変わるような存在。


 本当にオレ達のような異世界から来たのか、それとも現地の人間なのか分からぬ話も多いと伯爵様は言ってたっけ。


「でも魔物が居ないなら羨ましいわね。そしたら私のお父様だって……」


「クリスティーナ様。魔物が居なければ、今度は人と人が争いをするんですよ。オルボア公国のようにね」


「……そうよね」


 クリスティーナ様は魔物が居ないということで、この島のような平和で穏やかな国を想像したみたいだけど、現実はそこまでシンプルじゃない。


 オレの生きた時代の日本は、ワイマール王国の王様や貴族のこと決して笑えないよ。


 魔物が居て生存競争が厳しいか、人同士の争いが激しいか。


 二者択一になるのかもしれないって思う。


「何事も利点と欠点がありますからね。どちらか一方しか語らぬ人。特にいいことしか語らぬ人は、裏があると考えた方がいいですよ」


「ふーん。アレックスって時々難しいこと言うわよね」


「一応大人ですからね」


 子供には少し夢のない話だったかな?


 よく分からないと言いたげなクリスティーナ様に、思わず笑い出しちゃったよ。


「そろそろ戻りましょうか。ロボとブランカがお腹が空く頃ですから」


「そうね。私もお腹が空いたわ」


 結局釣りざおはピクリともしなかった。


 場所が悪いのか、時間が悪いのか、腕が悪いのか。


 全部良くなかった気がしないでもない。


 最近は活発に動くようにはなったロボとブランカだけど、まだ赤ちゃんだからそろそろミルクの時間のはずだ。


 それにオレ達ももうすぐお昼の時間なんだしね。


 今日のお昼は何かな。


 島に帰って来てからも伯爵様やクリスティーナ様とは、よく一緒に食事してる。


 エルとメアリーさんが仲がいいことが理由の一つ。


 現在食料は基本的に宇宙要塞から運んでるから、この世界ではあまり見ない食材なんかもあって調理法を教えたりしてるみたいなんだ。


 エルは相変わらずメイド服着てるし、メイドに憧れでもあるんだろうか。


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