第52話・伯爵様とこれからのこと

「お帰りなさいませ。お祖父様も皆様もお怪我は?」


「大丈夫じゃよ」


 伯爵様とジュリア達は三十分ほどで無傷で帰ってきたけど当然だよな。


 戦利品は盗賊達の武器と酒や食料が少しに鹿が一頭だ。


 オレ達は最初の無人島で海賊のお宝を手に入れたけど、そのあとの海賊騒ぎもろくな戦利品はなかったし今回も同じようだ。


 よく考えてみれば盗賊や海賊が働き者なはずもないし余程の大物にならない限りはその日暮らしなんだろうね。


 帰り道で狩った鹿が一番の収穫になりオレ達は伯爵様に誘われて少し早いが鹿肉で昼食にすることにした。


「なんと。ヴェネーゼ近海に出た海賊を退治したのはお主達だったか!」


「成り行きですけどね 」


「実はワシも近くに来たので様子を見に行こうとしたんじゃが直前で退治されたと聞いてのう」


 昼食は鹿肉のソテーと鹿肉と野菜のスープに黒パンだった。


 兵士が鹿の解体をして侍女さんが調理したけど昨夜の宿屋ほどではないにしろ結構美味しい。


 暇だったので調理風景を眺めていたが水を生み出せるマジックアイテムを使ってるらしく新鮮な水に困らないのも食事が美味しい理由だろう。


 食材は道中の村や町で小まめに買えばそれなりに新鮮な食材が手に入るし、貴族なだけに荷物用の荷馬車も一台あって庶民の旅とはワンランク違うように見える。


 食事の話題は先程お嬢様に話したオレ達の海賊退治の話となった。


 伯爵様とお嬢様は領地から王都に向かう途中でヴェネーゼの海賊騒ぎを聞いて様子見を兼ねて、少し遠回りをしてわざわざヴェネーゼまで来たようだが到着直前で海賊が倒されたと聞いたらしい。


「海軍は海賊退治にはほとんど動かないって聞いたけど?」


「海賊は海軍が出ても逃げてしまってのう。それに海軍は近海と航路の最低限の安全の確保で手一杯でな。まあヴェネーゼならば代官が報告さえ上げれば巡回を増やすくらいはしたはずじゃが。どうせ働いてなかったのであろう?」


「知ってたのかい?」


「あそこの町は貴族からすると扱いにくい町でな。口を出すと反発するので代官は働かんのじゃ。しかも王国の生命線の一つでもあるので何かあれば責任は取らされるが、良かれと思って何かしても住民にそっぽを向かれれば統治能力を疑われて損するだけじゃしの。貿易に差し障りがない限りは勝手にしろと匙を投げる者が多いのだ」


 ジュリアのやつ完全に伯爵様にタメ口を聞いてるよ。


 しかも海軍が動かないとか受け取りようによっては責めてるようにも受け取られ兼ねない話をしちゃうし。


 ただヴェネーゼの町に対する貴族側の意見には少し納得するものもある。


 ボルトンさん達が間違ってるとは言わないが自由には責任が生まれることをボルトンさんはともかく町の住民が何処まで理解していたかは怪しい。


  恐らく町の中枢の人間は理解してる故に代官の見てみぬふりを告発などしなかったんだろうけど、一般の町の住民はそんな町の中枢の人達と代官の関係まで理解はしてなかっただろう。


 こうして双方の話を聞くと代官の行動もある程度理解できる部分もあるな。


「そうか。世の中を見て回る旅をしとるのか」


「はい。生まれた故郷が小さな島だったもので島の外を見てみたくなりまして」


 それと伯爵様に旅の目的を聞かれたオレ達は世の中を見て回る旅に出たと告げた。


 一応オレは商人見習いにはしてるが商いなんてほとんどやってないし、エルはメイド服を旅装にした服でジュリアが剣士でケティは魔法使いだからね。


 冒険者にしてもいいんだけどギルドに登録してないし、する予定もないし。


「うむ。ならよければ王都まででも共に行かぬか? クリスティーナが暇をもて余してのう。若いそなた達なら話も合うであろう」


  食事を終える頃になると助けた商人の馬車も応急処置が終わり伯爵様達も出発することになったが、オレ達は予期せぬ誘いにより伯爵様達としばらく共に旅をすることになった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る