第46話・雨上がりの旅路

「おう、あんたらか。昼過ぎには船を出せそうだぜ」


「騒がしいですが何かあったんですか?」


「いや、昨日街道の脇に妙なゴブリンの死体を発見してな。四体居たんだがどれも下半身しかなくってな。何かヤバイやつが出たかもしれんから捜索隊出すかで揉めてんだよ」


 翌朝になりこの日の渡し船の状況を確認しに砦の中に入ったが、そこでは武装した兵士や冒険者が言い争いをしていた。


 渡し船の受付の兵士に事情を聞くと、何処かで見たような話で揉めてるらしい。


「なあ、あれって」


「昨日のレーザーで倒したゴブリンでしょう」


 ゴブリンは魔石以外は使い道がないし、倒しても捨てておくのだと聞いていたんだけど。少し珍しい倒し方をした為に、後続の旅人が砦に報告したようだった。


 オークでは無理だとか、ミノタウロスじゃないのかとかジャイアントスネークじゃないのとか、いろんな敵性生命体の名前が飛び交ってる。


 オレとエルは今後はレーザーを使用した際の後始末は、きちんとしようと心に決めつつそっと砦から出た。


 まさか名乗り出る訳にもいかないしね。





 渡し船が再開したのは翌日のお昼過ぎだった。


 まずは貴族らしい人達の馬車から運ばれていくが、一度に運べるの馬車は一台らしいので往復してると結構時間がかかる。


 この日は雨も止み、今日手前の村から出発してきた人達で混み合う中、オレ達の番になり川を渡る。


 渡し船の動力は人であり、汗を流しながら漕ぐ人達を大変そうだと眺めながら川を渡ると、馬車は新たな街道を走り始めた。


 対岸の砦のところにも渡し船待ちの人達が居るが、商人と冒険者らしい人達は半々といったところか。


 商人なんかは複数の人達が一緒にキャラバンを組むことが多いようで、オレ達より先に渡った人達でも後続の商人を待ってるようでまだ出発してなかった。


 ほとんどが顔見知りらしく、恐らく信用が置ける者達で助け合っているのだろう。


 オレ達は誘われてないし、逆に誘われても何かと面倒が増えるだけなのでお先にさっさと出発した。


 ただ雨はすでに上がっているが、夜中までは降り続いていたので道はぬかるみあまりいい状態ではない。


「また止まったの?」


「みたいだな。この調子だと次の村に着くのは夜になるかも」


 先に出発した馬車が前方に見える中での走行なため、流石に御者が居ないとダメかと、御者台に座り景色を眺めながら馬車を走らせてるけど。


 前方の馬車が轍にはまり止まると、必然的にこちらも止まり待たねばならない。


 前方に居るのは貴族らしい豪華な装飾のある馬車に、荷物用らしき荷馬車が一台に騎士か兵士が十人ほど。


 人数も多いので轍にはまっても自力で脱出しているが、貴族なんぞに関わってもいいこと無さげなので距離を開けている。


 ヴェネーゼで感じたのだが、この国の貴族と平民は互いにあまり関わりたがらない印象があるんだよね。


 まあヴェネーゼが特にそんな町なのかもしれないけど、人々に慕われる貴族なんてリアルで多いとは思えない。


 もしかしたら商人の人達は、貴族の馬車から離れる為に出発を遅らせていたのかもしれないし、オレ達は少し失敗した気もする。


 御者をオレがしてるのも、女のエル達が御者をして目立つのを避ける為でもあるんだ。


「あんまり強そうな兵士じゃないわね」


「そうか?」


「オークが三匹も来たら苦戦して犠牲者を出しそうだわ」


 エル達も馬車が止まる度に顔を出して様子を見るが、ジュリアいわく兵士は弱いらしい。


 ロボット兵より弱いとなると少し心許なくないかね?


 大名行列のようにとは言わないが、もう少しまともな戦力を同行させないと不安じゃないのか不思議だ。


「少し休憩しようか。おやつの時間だし」


 連れてる兵士が弱い貴族の馬車の後ろなんぞ走ってもいいこと無さげなので、オレは馬車を街道から出すと馬を休ませるふりをして休憩することにした。

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