第45話・川止め
もうすぐお昼になろうとした頃、馬車は思わぬ障害で止まっていた。
「ダメだな。雨が上がって水量が減らなきゃ船は出せん」
それは大きな川であった。
オレ達の馬車以外にも商人や冒険者に貴族らしい豪華な馬車などが何台か川岸の小高い丘の上にある石造りの砦の横に並んでいて、そこは向こう岸まで渡す渡し船の管理をしてる砦らしい。
常駐するのは兵士のようでオレとエルは話を聞きに来たのだが上流では昨日から雨が降っていたらしく川の水量が多いので渡し船は出せないと言われてしまう。
砦の中にはちょっとした食堂がありそこには雨が上がるのを待つ人達が居るが、川の様子を見る限り今日は期待薄のようだ。
「橋くらいかけりゃいいのに」
「川の中にも敵性生命体の反応がありますし橋の防衛が難しいのでしょう。渡し船ならば作り直すことも橋に比べると容易ですから」
川止めなんてまるで時代劇みたいだな。
砦は予約すると空き部屋がある場合は泊まれるらしく、川止めになると前の村に戻るか砦に泊まれるか馬車がある場合は馬車で泊まるかの三択らしい。
まあ床で雑魚寝でもいいなら砦の食堂の隅でも貸してくれるとも言っていたが。
「どうだって?」
「川止めで今日はここまでっぽい」
馬車に戻るとジュリアとケティは次に何を見るかで揉めていたが川止めになると言うと二人ともやっぱりと言いたげな顔をされる。
唯一の救いは砦は石塀で囲まれてるので敵性生命体が入ってこないことか。
「あれ、あの人って……」
「昨日の人ですね」
急ぐ旅でもないし今日はここで泊まればいいかと馬を馬車から外してやり馬車を広げて昼食のラーメンの準備を始めようとするが、ふと窓から川に視線を向けると昨夜騒ぎを起こしていた銀髪の女性が一人で川に向かうと魔法なのだろう。
女性は空を飛び軽々と川を越えて向こう岸に消えていく。
「へ~。確かに強いわね。彼女から感じるエネルギーは他の人と別格よ」
「エネルギーか」
そう言えば昨日エルが女性が強いと見抜いた理由を聞いてなかったけどジュリアが女性を窓から眺めて彼女から感じるエネルギーだと言われるとようやく理解した。
彼女達有機アンドロイドには並の人間やプレイヤーにはないセンサーというか感性があり、エル達はこの惑星の生命体に宿る未知のエネルギーを感じるようなのだ。
「お腹すいた」
彼女は何者だろうかと少し気になるがそれを考えたところでオレ達には関係ないし、ケティが空腹を訴えたのでお昼ご飯のラーメン作りを開始する。
麺は中太ちぢれ麺でスープは鶏ガラと野菜をコトコトと煮込んだオレのオリジナルだし、チャーシューは昨日のレッドボアーで作ったやつだ。
本物のプロには及ばないだろうが趣味だったから何度も作ってるしその辺のラーメン屋よりは美味しいと自負してる。
「おまたせ。さあ食うか」
「毎回思うけど司令。生き生きしてるわよね。料理してる時って」
小麦の味を感じるモチモチシコシコの麺はちぢれ麺なので、熱々の鶏ガラと醤油に程よい油のスープがよく絡んで我ながら美味いと思う。
ラーメンはやはり熱々のものをフーフーとしながらズルズルと音を立てて一気に啜るのが一番だね。
レッドボアーのチャーシューは初めてだったけど、比喩ではなく本当に箸で持つととろけるほどで。味が染みてる上にスープが絡むと絶品だし、要塞シルバーンで作ってるメンマもちょうどいいアクセントになってる。
途中で胡椒を少し足すとピリッとした胡椒の刺激が更に食欲をそそり、麺が無くなると少し行儀が悪いけど最後にスープにご飯を加えて残さず食べると至福の一言だった。
あっ、ロボとブランカもミルクが欲しいんだね。
ちゃんとあげるからそんなに騒がないの。
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