第43話・村の夜・その二
美味しいご飯を食べると後は本当に寝るだけのこの惑星の夜だが、ロボとブランカが起きていたので抱き抱えてやると二匹もまだ親の温もりが欲しいのか甘えるようにすりついてくる。
「人が集まって来ますね」
隣でシャワーを浴びて長い髪をドライヤーで乾かしていたエルは馬車のレーダーに映る人の反応に馬車の車外カメラの映像をモニターに映すと、酔っぱらった大男と若い女性の二人を中心に野次馬らしき人達が広場に集まり出していた。
大男は身長二メートルはあろうかという巨漢の筋肉ムキムキでスキンヘッドで若い女性は魔法使いなのだろう。
ケティのような全身を包むローブに自身の身長ほどある木製の杖を持った白髪の美人だ。
「何があったんです?」
ケティは薬の製作中らしく興味無さげに動かないしジュリアはちょうどシャワーを浴びているので、オレとエルは様子見を兼ねて馬車を出ると野次馬の中に居た夕方薬を買った若い男性の商人に話しかけた。
「ああ、あの人がローブの女性に酌をしろと騒ぎましてね。女性が拒否したら絡み始めてしまって弱い男は嫌いだと言われたら、ならば実力を見せてやると」
何事かと思えば宿屋と併設していた酒場で絡んでのケンカか。
村の人が言ってた酒癖の悪い奴はあいつだな。
「止めた方がいいかな?」
「必要ないと思われます。女性の方が強いようですから」
村の人や旅の行商人に冒険者など周りに集まりどっちが勝つか賭けまでしてる連中も居るが、流石に女性が乱暴されるのを黙ってみてるのもなんなんで一緒に居たエルに相談するも必要ないと言われてしまう。
戦闘型のジュリアほどではないが万能型のエルも十分に強いし多分オレでもあの男程度なら余裕だろう。
ただオレにはあの女性がそんなに強そうには見えないんだけど?
まあ態度も堂々としてるし強そうに振る舞ってはいるが。
「へへ、謝るなら今のうちだぜ?」
「早くかかって来なさい。私は貴方の顔などこれ以上見たくはありませんわ」
「てめえ。ぶっ殺す!!」
ざわざわとした雰囲気の中、女性が男を挑発するとあっさりと挑発に乗せられた男は両刃の斧を手に女性に襲い掛かった。
その瞬間女性の負けだと感じたのか女性の背後に居た野次馬がさっと開けるも、女性が杖を男にかざすと杖から生まれた真空の刃が男の持っていた斧が柄の部分で綺麗に切断されてしまい両刃の斧があっさりと男性の背後の地面に突き刺さる。
「無詠唱のエアーカッターですか。しかもあの斧の柄は鉄製なのに。本当に実力が違いますね」
男もまさかこんな展開は予想してなかったのだろうし野次馬の大半もそれは同じだろう。
若い男性の商人が女性の使った魔法について口にして先程エルが言ったように女性の方が強い事実に少し驚きながらもこのあとの展開を見守っている。
「まだやりますか? 次は貴方の腕を狙いますわよ」
「やるに決まってんだろうが!」
「ダメだってバルガ! 本当にやられちまうよ!」
「すいません。こいつにはよく言って聞かせますから!」
最早勝敗は付いたが男は酒の酔いもあり敗北を認めぬまま女性を睨むが、流石にここまで来ると男の連れらしき冒険者が男を止めに入る。
「貴方達も私が負けていれば止めなかったのでしょう? 同罪ですわよ。二度と乱暴など出来ぬようにしてあげます」
「ヒィ! こいつやべえよ!」
それにしてもこの女性随分好戦的だな。
止めに入った仲間にまで杖を向けるし。
結局男は仲間に引っ張られるように逃げていくと流石に女性も追わなくなり騒ぎは収まるが、誰も止めなかったこともそうだしあんな男に武器を持たせてる時点で本当に治安が悪い惑星なんだとしみじみと感じるよ。
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