第27話・ヴェネーゼ到着

 それからオレ達はほぼ予定通りの三日後の夕方に、ヴェネーゼに到着していた。


 ヴェネーゼは入り江を利用した内湾の奥に作られた、風光明媚な自然に囲まれたヨーロッパの港町という感じの町だ。


 入り江の入り口には灯台があり、大砲やバリスタのような武器が並んでいることから、入り江に入ってくる敵性生命体との戦いがあることを感じさせる。


 町の建物は全体を通して白い漆喰の壁のようで歴史はありそうだ。


 港や内湾には多くの船が係留されてる。


 ボルトンさんの商船が海賊に捕らわれた商船や海賊船を引き連れて戻ったことで、早くもヴェネーゼの港には人が集まり始めているみたい。


 オレ達の船はボルトンさんの口利きがあったのか、特に調べられることもなく港の一角に係留して、久方ぶりの陸地に上陸することが出来た。


「今夜は家に泊まってくれ。あいつらの後始末なんかをして、明日には礼金と褒賞金なんかを渡すからよ」


 船は魔改造された物なので、不便はなかったし快適だった。


 でもやっぱり陸地に降りるとホッとするね


 オレ達は船をロボット兵数人に留守番を任せた以外は、今夜はボルトンさんの招きで彼の家に泊まることになる。


 港では奴隷にされていた者達と家族が、再会して喜びの涙を見せてるけど。


 海賊達と傭兵達は数日飲まず食わずにされていたため、すでにぐったりしていて兵士に引き渡されていた。


「この人殺し! うちの人を返して!!」


「父ちゃんを返せ!」


「貴様らのせいでうちの商会は……うちの商会は……」


 最早抵抗する気力もない海賊達や傭兵達だが、それに追い討ちをかけるように住民達の悲痛な声が響き、石が投げられる。


 彼らのせいで帰らぬ人となったのは少なくないようだし、破産した商会もあるのだろう。


 兵士も形式的に石を投げるのを止めるように言うが止める気はないらしく、わざわざ立ち止まり被害者の好きにさせてるようだ。


「エル。ノーマン商会の関わった証拠は見つかった?」


「それが状況的には間違いなく黒なんですが、わざわざ海賊相手に証拠を残すはずもなく」


 帰らぬ家族を返せと叫ぶ人々を見て、オレはやはり両親が亡くなり途方に暮れていた頃のことを思い出してしまう。


「合法的に潰せるならなんでもいいよ。調べて」


「了解しました」


 今まで何処か他人事のように考えていたオレだが、彼らを見ていると人を食い物にするクズを知りながらも放置して見過ごすのは、そいつと同類になるのではと思えてしまう。


 法も倫理も違うこの惑星では、よくあることなのかもしれない。


 偽善や自己満と言われればそうなんだろうが、我が身を危機に晒す訳ではないし、ホンの少し手を貸すくらいならばやるべきだろうと思えてならない。


 かつてオレを救ってくれた恩人のように。




「賑やかだな」


 ボルトンさんは家に来てくれと言うと、後始末なんかがあるようで人混みに消えていく。


 町には数は多くないが、いわゆる獣人と思わしき耳や尻尾がある人がちらほらと見える。


 海賊は全て普通の人間だったもののボルトンさんの船や奴隷にされていた人の中には、数人だが獣人らしき人も居たので驚きはない。


 服装はほとんどが少し古めかしいようなファンタジーの町人のような姿だけど、鎧や武器を所持した人も多く本当にジュリア以外にもビキニアーマーを着てる人がいるよ。


「さて、ジョニーの顔を見に行くとしようか」


「本当に大丈夫なんだろうな?」


「大丈夫よ。任せといて」


 町を見物したいけど先にもう一人のプレイヤーと会ってどういう奴なのか見極めないといけない。


 それにマーチスという奴の情報も聞かないといけないので、オレ達はボルトンさんの屋敷に向かう。


 ボルトンさんの屋敷は、町の住宅街の中で中央に近い場所にある大きな屋敷だった。


 豪華さはないが機能的な屋敷とでも言うべきだろう。


「なんだって! てめえが付いていながら!」


 オレ達が屋敷に到着すると中からはボルトンさんの怒声が響いてきた。


「すいやせん!」


「まあまあ。相手はプロの殺し屋かなんかだ。旦那の若い衆じゃちょっと荷が重かったぜ」


 ボルトンさんの部下らしき若い男性に案内されたオレ達は、ちょっとした修羅場になってるボルトンさん宅のリビングに案内される。


 そこにはボルトンさんの部下らしき人や若い女性に小さな女の子と、魔法使いが着るようなローブを着ていて、黒髪で少しヤンキーっぽい髪型をした十八才くらいの男性がソファーでくつろいでいる。


「確かにオレの見込みが甘かった。客人よ、本当にありがとう。礼は可能な限りする。何でも言ってくれ」


 どうやらボルトンさんが居ない間の報告を受けていたらしいね。


「とりあえず米を……ってお前ジュリアか!?」


 ボルトンさんは怒り心頭の様子だったけど、ローブを着た男に宥められて落ち着いていた。


 ローブの男はとりあえず米をと言いかけてオレ達に気付くと、信じられないと言わんばかりの表情でジュリアの名前を口にした。


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