第26話・船旅の最中で

「司令。ヴェネーゼではボルトンさんの奥さんと娘さんが、誘拐されかけたようです」


 海賊達のアジトを出航した翌日。


 船団は陸地沿いに一路ヴェネーゼを目指していたが、オレはエルからの最新情報に流石に驚きを隠せないでいた。


「助けたの?」


「いえ、こちらが手を出す前に通りかかった、第三者が助けたようです。現在はその者が護衛をしてるので、当分は大丈夫でしょう」


 わざわざ直接関与した証拠を残さぬ為に海賊やら傭兵なんて使ったのに、直接に近い妻子を誘拐するのは少し疑問がある。


 焦ってるのか?


「ただ問題は助けた第三者なのですが。どうもプレイヤーのようなんです。プレイヤー名ジョニー。通称流星のジョニーというギャラクシー・オブ・プラネットの大手クラン、銀河旅団の攻撃隊隊長をしていた男と容姿が一致してます」


「ジョニーだって!?」


 マーチスの行動に違和感を感じていたオレだが、エルは少し困惑した表情でボルトンさんの妻子を助けた第三者の素性を説明した。


 オレとケティは無言で聞いていたけど、驚いたように声を上げたのはジュリアだった。


「ジュリア知ってるやつか?」


「まあね。アタシやセレスの戦闘部は何度も共闘した奴さ。戦闘機の腕前はたいしたもんだよ。戦略的な考えは出来ない奴だけどね」


 銀河旅団はオレも知ってるが、あいにく顔を覚えてるのはクランの代表くらいだ。


 数少なくなったオレと同じ古参のプレイヤーで、親しい訳でもないがイベントなどにジュリア経由で誘われたことはある。


「宇宙に他の艦や要塞はなかったはずだよね?」


「ジョニーの奴が持ってるのは戦闘機だけだからね。銀河旅団がそのまま来たなら別だけど、戦闘機一機じゃ燃料切れでもしたんだろうさ」


「いかがしますか?」


「どうしようか……」


「アタシ達が行くまで居るならアタシが話をするよ。粗暴な奴だけど義理人情に厚いやつだからね。話せば分かるはずさ」


 オレ達の他にギャラクシー・オブ・プラネットから来たプレイヤーが居たという話は、少し衝撃だった。


 下手をすると惑星を巻き込んだ宇宙戦争になる可能性もあり、オレもエルも対応を決めかねている。


 ジョニーというプレイヤーを知るジュリアが、自ら話をすると自信ありげに言うが大丈夫かね?


「一応周囲に他のプレイヤーが居ないか無人機で捜索させます。ただ宙域の宇宙に潜んでいる可能性はほぼあり得ませんので、他に居ても喫緊の問題にはならないかと」


「それしかないか。しかしそのジョニーって人凄いね。一人で見知らぬとこに投げ出されたのに、人助けまでして。物語の主人公みたいだ」


「エル。米はある? ジョニーを大人しくさせるには白いご飯が必要だよ」


「米ですか? 船に数日分なら」


「なら次の補給で多めにお願い」


「ジュリア。米ってそんなに必要か?」


「あの男の口癖だからね。よく働き白い飯を腹一杯食うことが生き甲斐だって。この辺りには米はないみたいだからね」


 下手な野心やら欲を持ったプレイヤーなら厄介なことになるとオレやエルは警戒してるけど、ジュリアは顔見知りだからかあまり警戒してない。


 というか白いご飯で本当に喜ぶのか?


 確かにまあ何日か食べないと、食べたくなる時はあるけどさ。


 普通に考えて白いご飯があるよなんて言っても、馬鹿にするなと怒られそうな気がするんだけど?


 それにしてもプレイヤーに、人の命や財産を食い物にするクズ商人と町に着いても大変そうだな本当。


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