間話「お酒はほどほどになんじゃね?」
リカーショップ花丸は、祖父の代で花丸酒店として開業し、父が継ぎ洋酒ブームに合わせてリカーショップ花丸と改名した。そして、現在、三代目店主の花丸茂雄が店長として、妻とふたりの娘と切り盛りしている。
昨今、大ブームとなったウイスキーはもちろん、地酒や焼酎、クラフトビールなどを手広く取り扱い、娘主導で通販も行っていた。
おかげで近所に大型スーパーができても経営に問題ない。
昔から問屋と付き合いがあるので、近年では手に入り辛いジャパニーズウイスキーも融通してもらっている。
ただし、転売屋が向島市にもいるので、常連客にしか出すことはしない。
そんなある日、聴き慣れた声が「こんちわーっす」と店に響いた。
「銀子ちゃん、いらっしゃい! 今日はお休みかい?」
常連の青山銀子の声がしたので、茂雄はニコニコして出迎える。
銀子は娘の高校時代の後輩であり、よく遊びに来ていた。
成人し、お酒を覚えてからは、よく飲むよく飲む。
ビール、芋焼酎、ウイスキー、ジン、ラム、と給料が入っては散財しているのを、嗜めることはあるが、上客のひとりであった。また、銀子の父も常連であるため、青山親子は大切なお客だった。
聞いているこちらが元気になる大きな声で、来店してくれた銀子を出迎えた茂雄は硬直した。
その理由は、今までお目にかかったことのない絶世の美女がいたからだ。
「おー、日本の酒屋はこんな感じなんじゃなぁ。ええのう、ええのう。ええ品揃えじゃ!」
「言っておきますが、小梅さん。五千円に収めてくださいよ!」
「……それじゃあ、やっすいのしか買えんじゃろう」
「少しいいお酒は一本買っておけばいいんですって。はい、ジョニ○!」
「おまっ、いつの時代のいいお酒じゃ! 昔はさておき、今じゃと普通のお酒じゃろう! まあ、銘酒であることは否定せんがな」
モデル顔負けのスタイルの良さ。
輝くようなブロンドヘアー。
それでいて、言葉遣いが悪いのが茂雄ポイントが高かった。
「ぎ、銀子ちゃん」
「あ、おじさん。どうもーっす。今日は友達を連れてきたんすよ。ちょっといいウイスキーください」
「あ、ああ。それならとっておきが」
小梅の美しさに動揺しながら、店の奥から出してきたのは最近では見ることもなくなったスコッチの十八年ものだった。
希望小売価格は三万ほどだが、その倍以上で売られていることが多い。
「ちょ、ちょっといいウイスキーって言ったじゃないっすか! とんでもねえ酒を出さないでください!」
「よし、買え! 銀子! 魔法のカードで支払うんじゃ!」
「やめてください。これは魔法のカードじゃなくて、使ったら使っただけ請求がくる超現実的なカードっす! おじさん、もっと良心的な手を出せるようなお値段のお酒にしてほしいっす!」
「あ、ああ、すまない。おじさんぼーっとしていたよ」
茂雄が再び店の奥に入り戻ってくると、どう見てもお高いだろうというブランデーを持ってきた。
「ちょ、それなんかのテレビで見たことあるっすよ! ホストで飲むクッソ高いお酒! それ何十万するやつじゃないっすか! つーか、なんで無駄にトゲトゲしてるんすか!? 鈍器っすか!?」
「銀子。俺様にぴったりな酒が来たぞ。ささ、と魔法のカードで支払うといい!」
「小梅さんはペットボトルに入った焼酎を抱えて飲んでいればいいんすよ!」
「はっはっはっ、そんな女子力皆無なことできるわけがないじゃろ! お前とは違うんじゃよ!」
「あんだとー! わ、私の女子力を知らないっすね!」
「ほう、銀子の女子力とはなんじゃ?」
「するめくらいは焼くっす!」
「……女子力皆無じゃろ」
女の子たちの楽しげな会話を聞きながら、お耳が幸せになっている茂雄だったが、ようやく酒屋の店主としての意地で正気を取り戻す。
「へい、らっしゃい。銀子ちゃん、今日はなにをお探しかな!?」
「なんでやり直しているっすか!?」
「へへっ、気にしちゃいけないよ」
茂雄は元気いっぱいな銀子とモデルも真っ青な美人の小梅と楽しい時間を過ごし、いつもならありえない試飲までさせてしまう。
少し顔を赤らめた小梅の「お願い」を受け、奥から人気のウイスキーを迷わず持ってきてしまった。
ホクホク顔の小梅と、想像以上にお金を使って唖然としている銀子を見送り、茂雄はひとり呟く。
「春子さんといい、由良さん家には美人が集まるなにかがあるのか!? なっちゃんが羨ましいぜ」
夏樹を知っている茂雄は、小梅や銀子と一緒に生活する夏樹を心底羨ましいと思ったのだった。
〜〜あとがき〜〜
せっかくなので小梅さんと銀子さん回。
お好きなウイスキー、ラム、ジン、ウォッカ、日本酒、芋焼酎をご想像ください。
ちなみにリカーショップ花丸の次女は、夏樹の先輩でサッカー部のマネージャーさんです。モテモテな方です。
たまにはこういうお話も。限定にしよかと思いましたが、せっかくなので、こちらに。
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