12「キラキラしててもいいんじゃね?」②





「ぎゃーはははははははははっ! 相変わらずクソみたいな名前じゃな! クソ兄貴が輝いて見えるぞ!」

「構いません。笑ってください」


 妹は兄を指差し爆笑している。よほどおもしろいのか、ひっくり返って足をバタバタさせている。

 しかし、夏樹と銀子は笑えなかった。


 一心ぴゅあは俗に言うキラキラネームだろう。

 バラエティ番組でネタにされる名前は数多くあり、時には「それはちょっと」を通り越して「ないわー」と悲しくなるような名前まである。

 時には、別の意味合いを感じさせてしまう酷い名前だってあるのだ。

 ただし、改名は可能だ。

 しかし、小梅がそうであるように、一心ぴゅあもゴッドが決めた名前なので改名ができないのだろう。

 小梅の兄なら、やはり紀元前から生きているのだろうが、長い時間一心ぴゅあという名を名乗らされていたと思うと、笑いよりも先に悲しさがくる。


「笑わない、のですか?」

「……笑えないです」

「小梅さん……お兄さんに無理やり名乗らせるとか、天使の所業じゃないっすよ」

「なん、じゃと?」


 一緒に大爆笑すると思っていた小梅だったが、夏樹と銀子が悲しそうな顔をしているのを見て驚いている。

 だが、驚いているのは小梅だけではない。

 ルシフェルもまた、大きく目を見開いていた。

 おそらく、彼にとって初めての反応だったのかもしれない。

 つう、とルシフェルの頬に涙が伝った。


「……嗚呼、なんということでしょうか。今まで、家族も、友人も、親戚も、近所の人たちも、敵対した魔族や、部下さえも失笑どころか爆笑した私の名を憐れんでくれるのですか」

「その言葉を聞いて、憐れみ通り越して言葉にできない悲しい感情しか湧き上がってこないですから」

「小梅さんの名前って全然いいっすよね。ルシファーに合ってないだけで、ちょっと古風なお名前っすから。でも一心ぴゅあって。……小学生なら毎日執拗に揶揄われるレベルっすよ」


 同情する言葉を重ねる夏樹と銀子に、ルシフェルはハンカチで涙を拭うと、感極まったように笑顔を浮かべた。


「感動しました。由良夏樹くんと青山銀子さんは私のお友達です!」


 知り合って一時間も経たない内にルシフェルに友達認定されてしまった。

 さすがに想定外だ。


「やったね、銀子さん。ビッグネームが友達になったよ」

「……な、なんのことっすかね。わ、私はあくまでも小梅さんのお兄さんとお友達になったってだけで、魔族の幹部とかしらねーっす」


 感動するルシフェル。

 友達認定にちょっと困った顔の夏樹。

 めちゃくちゃ動揺している銀子。

 兄を名前でいじる予定が同情になってしまったのでおもしろくなく頬を膨らませる小梅。


「つーか、クソ兄貴はなんで人間界に来たんじゃ? マジでご挨拶だけとか抜かしたらぶっ飛ばすからな!」

「いえ、そんなまさか。ご挨拶だけなら、お電話でもできます。ただ、やはり兄として礼儀を尽くしたい。しっかりお顔を見て、ご挨拶したかったのです」

「挨拶が済んだのなら帰れ帰れ」

「実を言うと、もうひとつ用事があります」

「なんじゃ?」


 怪訝そうな顔をする小梅に、笑みを絶やさずルシフェルは続けた。


「由良夏樹君。君はとてもいい子のようです。力もかなりありますし、正直、魔族として君と戦ってみたい感情もあるのですが……それは置いておきましょう」

「はぁ」

「私は君にお聞きしたい! SNSでマイエンジェル小梅ちゃんとデートしている写真が山のようにアップされているのですが……まさかとは思いますが、お付き合いされているとか、淫らな関係になっているとかはないですよね!?」


 ルシフェルは妹と仲が良い夏樹に直接問い質しに来たようだ。

 都といい、ルシフェルといい、姉妹への愛が重い。


「くっだらねぇ理由で魔族の幹部が人間界にくるな! このボケェ!」


 小梅の怒声が由良家のリビングに響き渡った。








 〜〜あとがき〜〜

 ルシフェルさん「――っ、私の名前を聞いても笑わないなんて。まさかこれが、友情?」

 ちなみに、ルシフェルさんには気を許せるお友達はいません。

 仕事上の付き合いはありますが、基本ぼっちといいますか、仕事人間です。




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