71「決着の時間じゃね?」①





「くぉーら、夏樹ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい! おどれの力はどうなっとんじゃぁああああああああああああああああ!」

「あ、小梅ちゃん」

「あ、小梅ちゃん、じゃねーわぁあああああああああああああああああああ!」


 水無月家から市街に向かう道中、竹林から半分焦げた小梅が飛び出してきた。


「せっかく治した翼がまたローストされたんじゃけど! 腕も一回炭化しちゃったんじゃけど!?」

「あー、ごめんね。全力は出さないようにしたんだけど」

「あれで全力じゃない、じゃと?」


 ありえんじゃろー、と小梅が顔を青くした。


「あれ? ジャックは?」

「あのグレイは宇宙船が壊れたんで、仲間が牽引していったぞ」

「宇宙船壊れちゃったの!? なんで!?」

「おどれがやったんじゃろうが! ルシファーさんの結界ぶち破っただけじゃなく、宇宙船まで破壊しよって! おどれは破壊神かなんかか!?」


 夏樹はショックを受けた。

 まさか親友の船を壊してしまうとは。どう謝罪すればいいか、弁償とかできるのだろうか、と悩む。


「あー、ジャックから伝言じゃが、気にせんでいい、とのことじゃ。どうせ夏樹が知れば気にすると思ったんじゃろう」

「ジャック……なんて気遣いのできる紳士」

「んで、土地神はぶっ殺してきたんか?」

「うん」

「じゃろうな。あの力を受けて死なんかったなら、神界にお呼ばれしておるじゃろうしな」


 土地神みずちのことは思うことがあるが、もう気にしないことにしている。

 うーん、と身体を伸ばした夏樹は、小梅に気になっていたことを聞いた。


「ねえねえ、小梅ちゃん。ジャックの船ってやっぱり円盤だった?」

「アダムスキー型じゃったぞ!」

「マジで!?」

「本人はレトロじゃなんじゃと言っておったが、よくわからん。にしても俺は初めて宇宙船を見たし、宇宙船がぶっ壊れるのもみたせいで心臓バックバクじゃ」

「いいないいなー!」

「というか、夏樹がぶっ壊したせいであいつら故郷に帰れんじゃないんか?」

「友達がいるなら大丈夫っしょ。それに、タクシー的なものがあれば、いいなぁ」


 母は小梅とジャックとナンシー、そして銀子のみんなを気に入っているのでしばらくの滞在は問題ないだろう。

 婚前旅行をどのくらいするのかわからないので、あとで聞いてみようと思った。


「面倒なことも終わったし、どっかで買い食いせんか? 力を使ったら腹が減ったんじゃが」

「天使も力使ったらお腹空くんだ?」

「そりゃ空くじゃろう。なあなあ、俺様、カロリー山盛りのらーめんが食いたいんじゃが」

「太っても知らないよ?」

「ばっか! 生まれてから、一度も太ったことはないわい!」


 男女問わず羨ましいことを胸を張って言う小梅とふたりでラーメン屋もいいなと思う。


「あ、だけど、片付けたいことがあるからそっちを先でいいかな?」

「なんじゃ? まだ誰か殺るんか?」

「殺しはしないけどさ。鬱陶しい自称幼馴染みと決着をつけようと思うんだ」


 なんのことだかわからなく首を傾げる小梅に、「さくっと終わらせるから気にしなくていいよ」と伝えると、彼女は「おう!」と返事をしてくれる。

 余計なことを言わず、干渉しない彼女に感謝しながら、夏樹は市街へ向かってゆっくり歩くのだった。






 ■





 一方、その頃。

 綾川杏は、公園のブランコに座ってぼうっと俯いていた。

 今までなぜ忘れていたのかわからないが、ここは初めて夏樹と遊んだ場所だ。

 しかし、優斗と出会ったあと、なぜか一度も立ち寄らなかった場所でもある。

 杏が優斗と遊んでいた時、夏樹は一登や他の友人と変わらずこの公園で遊んでいた。

 優斗と遊ばず、夏樹たちとここで遊んでいたらもっと違った今になったのではないかと思えてならない。

 なぜ夏樹を邪険にしてきたのか、なぜ今になって急に夏樹への想いを思い出したのかわからない。


 杏は、まだ「なんとかなる」と思っていた。

 夏樹の言葉は、残念ながら届いていなかった。


 スマホには誰も連絡をくれない。

 一登も、今まで鬱陶しいほど連絡が来ていたのに、由良家で別れてから音沙汰ない。

 薄情な奴、と思ったときだった。誰かの影が、杏にかかった。


「――おに」


 もしかして、兄が迎えに来てくれたのではないか、と期待して顔を上げた杏には、いつもと変わらぬ優しい笑顔を浮かべた三原優斗がいた。

 しかし、なぜか、杏には彼の笑みが歪んで見えたのだった。


「探したよ、杏」







 〜〜あとがき〜〜

決着つけます。(でも、殺りません)

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