64「別に無理して出迎えなくてもよくね?」
水無月家についた夏樹を歓迎してくれたのは、当主水無月茅と秘書八咫柊。そして、先日顔を合わせた星雲相談役という老人と、雲海という老女――そして、夏樹に敵意をむき出しにしている中年霊能力者多数だった。
「突然すみません。でも、嬉しいです。みなさん総出で歓迎してくれて。なんなら幟とか垂れ幕とか徹底的に歓迎してくれればよかったのに」
「……申し訳ございません。長老たちは驚くほど簡単に話を受け入れてくれたのですが、彼らは反対を主張していまして」
「あれ? 歓迎じゃないんですか、残念です」
わざとらしい夏樹に、茅は深く頭を下げ謝罪する。背後では柊も頭を下げていた。
そのことが余計気に障ったのだろう、遠巻きに睨んでいる人間たちからの敵意が強くなる。
「由良殿、あまりいじめないでくださるかな」
「お前が力を持っているのだと分かっていても、それでも神殺しができるかどうか我々もわからないのだ」
「どうも、おじいちゃん、おばあちゃん」
老人星雲と老女雲海からは敵意はない。
茅の言葉通り、神殺し――いや、土地神みずちの解放を願っているのだろう。
「もう少し時間があれば若い衆も説得できたんだが、申し訳ない」
「お前もお前で、急すぎるのではないか?」
「ごめんなさいね。でも、ほら、早いに越したことはないじゃないですか」
「……神殺しをそんなコンビニに行くみたいに」
「まあ、気軽にやります。心配していたことも消えたんで、任せてください」
夏樹の気軽さに、星雲相談役は困惑気味だった。
「しかし、よほど自信があるのだな。土地神が神族の中では位が低いとはいえ、神は神だ。気を抜けば殺されるぞ?」
口こそ悪いが、夏樹を心配してくれているのがわかる雲海老女だ。
茅から、彼女はずっと生贄に選ばれた澪を気にかけていたと聞いているので、なんだかんだと根は優しい人なのだろう。
「なんとかしますって。神様だって生きているんだから、めっちゃくちゃに攻撃すれば死ぬっしょ」
「……茅。本当に大丈夫なのだろうな! 澪のこれからがかかっているのだぞ!」
雲海は、やはり澪を今でも案じているようだ。
「雲海様。少なくとも私は、由良様から相当なお力を感じとりました。おそらく……神殺しは叶うでしょう」
茅は夏樹の力の詳細を口にしなかった。
どれほどの力を感じ取ったのか、例えることもできただろうが、気を遣ってなのか、あえて言わないことを選択してくれた。
夏樹としてはありがたいが、きっと土地神を殺したらいろいろ面倒なことになることは覚悟している。
それでも、ひとりの人間として、悲しい想いをしている人たちがいて、また手の届く範囲にいるのなら救いたいと思えた。
(でも不思議だ。これが優斗や杏だと、救う救わない以前に関わりたくないんだから。――っ、もしかして、この気持ちって……嫌悪?)
土地神を屠るためにやってきた夏樹に、緊張感も悲壮感もない。
思えば、異世界で魔王を倒したあと、実はスタンバイしていたんじゃないかとばかりに高笑いしながら登場した魔神を思い出す。
魔神は神を名乗るだけにびっくりするほど強かったが、それだけだった。思えば、なぜ魔神が魔王を操っていたのかという行動理由さえ知らない。なにか語ろうとしていたところ、チャンスだと思って襲い掛かったのだが、そもそも興味がなかった。
魔王と戦ったのも、地球に帰るという一縷の望みを託してだったが、魔王は戦うだけの背景と理由はあった。
(土地神も話を聞く限り可哀そうなやつだな。魔王も可哀そうなやつだったし……ま、元気にやっているでしょう)
土地神を殺すことで救うという理由もあるが、夏樹の現在の肉体でどこまで力を行使できるのか、実践で試すにはいい機会だった。
小梅との戦いは場所に気を遣ったが、今回は小梅とジャックが結界を張ってくれるので、存分にできる。
(個人的には、土地神に縋っているだけの人間も気に入らないんだよね)
少しだけ、異世界に呼ばれて勇者にされて無理やり戦わされた自分と、向島市のために尽くしてきた土地神みずちが重なるかと思ったのだが、前者は選択肢がなかったのに、後者は選択肢があったので違っただろう。
夏樹だって、家族や友人が苦しんでいれば、生贄はさておき、土地神と同じようにできることをしただろう。夏樹と土地神の大きな違いは、土地神みずちが愛する人たちのために身を犠牲にしてきたのに対し、夏樹は見ず知らずの人間のために犠牲を強いられたことだ。
「――土地神様のほうも俺がわかっているみたいですね」
「伝えてはいません。しかし、誰かの言葉がお耳に届いている可能性もあります」
水無月家の奥から、霊力に近い神力が伝わってくる。
微弱なものだな、人間よりは強い。
「お気をつけください。みずち様は、二重人格になっています。普段は温和ですが、一度反転するとなにをするかわかりません」
「なるほど。いろいろ思うこともあり、話もしてみたい気がしますが、始めましょう。でも、その前に」
夏樹がこちらを睨んでくる人間たちに向けて魔力を放つと、一同が膝から崩れ落ちて失神した。
「途中で、妨害されたりすると面倒くさいので、失礼しました」
夏樹が軽く頭を下げるも、茅だけではなく柊、星雲、雲海が顔を真っ青にしていた。
「じゃあ、殺りますか!」
〜〜あとがき〜〜
実は、魔王様生存。あくまでも倒しただけです。
澪さんと会話して、VS土地神です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます