46「こんな兄貴とかキモくね?」②





「お前……最悪だな」

「誤解しないでほしいかな。別に僕がエッチさせてほしいなんて頼んだことはないし、お金だって迷惑だったよ。あと、杏には手を出していないから安心して」

「別に心配してないから」

「お金だっていらないって言っても押し付けてくるから有効的に使って入るけど。逆にどうすればいいのか教えてほしいよ」


 口ではどうこう言いながら、優斗が少女たちから金をもらい、肉体関係を持っている事実は変わらない。


「そうやってうまく杏たちを使って夏樹くんへ暴言吐かせて。なにがしたいんだよ?」

「だから誤解だって。杏や明日香が夏樹のことを悪く言うのは僕だってどうかと思っているんだよ。そもそもあの子たちは夏樹の良さをわかっていないからね。正直言わせてもらうと、毎回比較されて恥ずかしいのはこっちだよ。杏も明日香も、馬鹿だから夏樹を貶めることでしか僕の気を引く方法がわからないんだよね。まったく、参っちゃうよ」

「……お前」


 一登が知る限り、杏や明日香が夏樹を悪く言っても優斗は困った顔をしているだけだった。一登に対しても似たような対応だ。しかし、まさか、夏樹と比べられて実は恥ずかしいなどと、まるで夏樹の魅力は自分以上だみたいな言い方をするとは思わなかった。


「僕も人の悪口は好きじゃないから、やめろと言ったんだけど、どういうわけか僕のことを好きだと言う割には言うことを聞いてくれないんだよ」


 どこか優斗の物言いはうんざりしたように聞こえた。

 一登としては、不快な台詞ばかりだ。実際、優斗は夏樹が悪態を吐かれても曖昧に笑っているだけでたいして注意もしない。それでいながら、今さら不本意だったと言われても納得ができない。

 また、そのことを夏樹本人に言わず、弟の一登に告げていることもなにか裏がありそうだ。


(邪推するわけじゃないけど、自分が言っても信じてもらえないから俺から言うように仕向けている……とかは流石にないよな)


「杏と明日香がおかしいのは一登だってわかっているだろう? 僕を好いてくれてしながら、パパ活しようとしたり、肉体関係を迫ってきたり、他の子を陥れたりって、面倒だよね。そもそもパパ活とか意味がわからない。事前に止めたからよかったけど、仮にも僕に迫るならおっさんに触らせないでほしいよね」

「……そういう問題じゃないだろう」


 パパ活に関しては、一登も止めたことがあったので、頭が痛くなる。

 まさか優斗にまで事前に止められているとは知らなかった。


「なによりもさ、夏樹の家が家庭崩壊した件だって、杏がおかしいんだよ。一登は誤解しているようだけど、僕は杏になにかしろなんて言ったことはないよ? 確かに、夏樹の妹としては分不相応だったけど、家庭を壊すなんて。そんな夏樹が悲しむことするはずがないじゃないか」

「……兄貴?」


 一登は、兄に言葉にできない気持ち悪さを覚えた。

 なにが気持ち悪いのかわからないが、会話をしていてちゃんと会話ができていない。優斗は目の前にいる一登を見ていない、そんな感覚さえする。


「明日香だって、夏樹と一登に男の子だと勘違いされていたのに、ふたりが自分に気があると思い込んでいるんだよ。笑えるよね」

「そんな明日香さんと関係持っているお前はなんなんだよ」

「僕だって男だから気持ちいいことは好きだよ。手軽にエッチできる都合のいい子ってひとりいると便利じゃないかな」

「……とことんクズ野郎だな」

「杏も明日香も他の子たちも、鬱陶しいほど付き纏っていたくせに、急に態度が変わっちゃって、ちょっと面白くないよね。散々、夏樹の代わりに面倒見てあげていたのにさ。杏はお兄ちゃんお兄ちゃんってうるさいし、夏樹はお前のお兄ちゃんじゃないって言うのにさ。明日香だって、もうエッチしたくないとか言い出したけど、僕がさせてくれなんて頼んだことは一回もないからね。自分から誘っておいて、愛し合う証拠だと言って写真や動画を撮っていたのに、腹立たしいよ」

「……そんなことまでしていたのかよ。吐き気がするぜ」


 知りたくもなかった兄の情事に吐き気を覚える。

 もう話をしていたくないと兄の部屋を去ろうとした時、優斗が立ち上がり腕を伸ばしてきた。

 優斗の腕は一登の二の腕を掴み、これでもかと力が入る。


「――っ」

「あとさ、杏たちのことなんてどうでもいいんだけど。さっきから、一登はどうして夏樹のことを親しげに呼んでいるのかな?」

「なにを」

「夏樹の幼馴染みは僕なんだけど?」


 ぞっとした。

 杏と明日香は優斗に惚れながらも、なにか夏樹に執着があるのだと思っていた。しかし、一登は気づいてしまった。

 誰よりも夏樹に執着しているのは、兄だということに。


「離せよ! 気持ち悪いんだよ!」


 兄の腕を無理やり振り払い部屋から出ていく。

 幸い追っては来なかった。


(自分は関係ないみたいなこと言っているけど、夏樹くんに対してのあの感じからするに、よからぬことを考えているのは間違いないと思うんだよな。まったく、気持ちの悪い兄貴だぜ)





 〜〜あとがき〜〜

 次回は水無月家編となります!


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