43「マークされてるとかやばくね?」①





「いやー、食べた食べた。満腹っす! 最近は、仕事が忙しくてちゃんとご飯食べていなかったのに、お寿司をたくさんたべられるとかラッキーでした!」


 夏樹の中学校のジャージを着る銀子は、ベッドに腰を下ろして、お腹をさすりながらご満悦だった。

 夏樹は笑顔を浮かべ、「それはよかった」と言う。


 銀子に話があって部屋に来てもらったのだが、歳上の綺麗な女性と夜の自室で二人きりというのはなかなか緊張する。

 ちなみに小梅は「風呂じゃぁあああああああああああああああ!」と喜んだあと、ひと風呂浴びてから母と晩酌している。


 ジャックとナンシーもお風呂の後、少し早めに休むそうだ。空き部屋は和室と洋室があったのだが、彼らはあえて和室を望み「ジャパニーズタタミ! ジャパニーズフトン!」と海外の方のノリで喜んでいた。


 そんなわけで、お風呂上がりの銀子と向き合いちょっと緊張気もの夏樹だ。当たり前の匂いだと思っていた、母のシャンプーやボディーソープの香りが銀子から香ると、胸がドキドキするのはなぜなんだろうか、とぎこちなくしている。

 ほろ酔いでご機嫌の銀子は、夏樹の思春期な反応に気づいていない。


「んで、話ってなんすか?」

「えっと、こういうことを聞いて良いのかどうかわからないんだけど」

「……スリーサイズは秘密っすよ」

「聞いてないから! じゃなくて、ちょっと真面目なお話なんですけど!」

「わかりましたっす」


 真面目な話だと伝えると、ベッドの上で背筋を伸ばして話を聞く体制になってくれた。


「警察って、霊能力者がその力で悪さをしたら取り締まるんですか?」

「あー、そういう話っすか。正直なところ、場合場合っすね。力を使って傷害や殺人とかなら捕まえてぶち込みますよ。院って知ってますよね? 霊能力者の互助組織みたいなところなんですけど、そこに霊能力を封じることのできる人がいるんで、お願いする場合もあるっすね。ときどき、人としての範疇を超えた犯罪をするバカがいるんですけど、そういう場合は……中学生に言うことじゃなんすけど、最悪ぶっ殺したり、副作用とか気にせず霊能力を二度と使えないようにぶっ壊すとかします」

「力を破壊?」

「ええ。私は対応したことがないんでわからないっすけど、力を奪うとかじゃなくて、封じるとかでもなくて、霊能的な力をまるっと使えなくしちゃうようにぶっ壊すんですよ。ま、いろいろ障害が残っちゃうんで最終手段のひとつっすね」


 なるほど、と夏樹は頷く。

 夏樹も、その気になれば相手の力を壊すことができる。

 霊能力者にやったことはないが、相手が魔法使いなら肉体の中にある魔力の流れを内側から強い魔力をぶつけて破裂させてしまえばいい。そうすれば、二度と魔力を使えなくなると同時に、人としてまともな生活を送れなくなる。


 他の人のやりかたはさておき、夏樹の手段は膨大な自分の魔力を利用して相手の肉体を壊すことなので、魔力だけではなく、肉体も壊れてしまうのだ。

 命こそ奪わないが、最悪廃人だ。

 そのため、潜在能力を持ち、その力がどのようなきっかけでそうなったのか不明だが魅了を持つ三原優斗の力を破壊しようとして、できなかった。

 下手に廃人になったり、中途半端に生きているなら、殺してしまったほうが後腐れはないしだろう。

 だが、あんな男でも悲しむ家族がいるのでできなかったのだ。


「もしかして、俺が誰かの力を破壊しても怒られない?」

「何ってんすか。普通に大問題っすよ! 院でも、良し悪しで意見が分かれているっすから! できてもやっちゃ駄目っすよ! 最悪、目をつけられますし、夏樹くんが異世界帰りで勇者とか未知なる力とか持ってるのバレたら面倒なことになりますよ!」

「……やっぱ駄目かぁ」


 個人的に優斗が誰かを魅了しようと構わない。

 彼の潜在能力は未知数だが、魅了の力はそれほどでもない。触れることを条件としているようだが、夏樹の感覚では優斗が誰かに触れても「あ、この人いいなー」と思うくらいの力しかない。


 毎日執拗に触れられても、さほど問題がないだろう。女子男子含めて接触が多くても「ベタベタしてきてうざい」という子もいる。仮に好意を抱いしてしまったとしても、その好意を維持させるのなら、それは優斗か対象にきっかけとなった好意を本物にするようなことをしているのだろう。


 もしくは、夏樹がわからない範囲で別の力か何かがあるか、だ。または、魅了を自覚し、頻繁に使っている可能性もある。

 それでも、魅了される相手は限定されるだろう。

 実際、かつて優斗に入れ込んでいても、数ヶ月後に興味をなくす子もいた。優斗の周囲を固める女子たちは、特定の子以外は、入れ替わりが激しいこともある。

 推測ではあるが、優斗がさほど執着がなければ、魅了できなくなるか、相手が自分の気持ちの違和感に気づくかしているのだろう。


「つーか、なんで急にそんなことを?」

「実は、俺に幼馴染みがいるんですけど」

「あー、はいはい。三原優斗くんっすよね。彼のことはこっちで把握していますよ」

「嘘ぉ?」


 まさか、名を出す前に銀子から優斗の名を聞かされてさすがの夏樹も驚いた。





 〜〜あとがき〜〜

 優斗くんに関しては次回も含めて見守っていただけたら幸いです!

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