42「お泊まり会ってテンション上がらね?」②
「寿司じゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」
由良家の茶の間で、畳の上で器用にあぐらをかいた小梅がテンション高く雄叫びを上げる。
「あらあら、喜んでくださってよかったわ。よく考えたら客様が海外の方なのにお寿司はどうかしら? そちらの方は平気かしら?」
夏樹の母――由良春子が、人の姿になり綺麗な正座をしているジャックとナンシーを気遣う。
ふたりは笑顔で礼を述べた。
「ありがとうございます。私たちはお寿司は好きです。母国でも生魚は食べていましたので」
「お気遣いありがとうございますわ」
「よかったわ。さあ、銀子ちゃんも座って座って」
「私もいいんすか?」
「あら、まだお仕事中?」
「いえ、そうじゃないんっすけど」
「夏樹を送ってくださったのだから、ぜひ食べていってね。銀子ちゃんの好きなウニとイクラを多めに頼んでおいたから、ささ」
送るだけ送ったら帰るつもりだったのか、銀子は食事に誘われて少し戸惑い気味だ。
「いいじゃん、銀子さんも一緒に食べようよ。ほらほら、いろいろお疲れ様ってことでさ」
「夏樹くんまで……じゃあ、遠慮なくご馳走になるっす!」
一応、母に追及されると面倒なので銀子は魔剣太郎と魔剣花子を車内に置いてきた。
寿司を前に涎を垂らしそうな小梅を銀子は警戒しているようだが、夏樹としては魔族であると疑われた誤解も解け、謝罪もあったので気にしていないし、再び敵対して襲ってくることがないとわかっている。
日本人よりも綺麗に割り箸を握る姿から、夏樹への再戦などまったく考えていないと見受けられる。
「お酒は飲むかしら? ビールしかないけど」
「いただきます!」
誰よりも先に目を輝かせ返事をしたのは小梅だった。
ジャックとナンシーも「どうもありがとうございます」と恐縮しながらグラスを受け取る。
「あ、私は車なんで」
「じゃあ、泊まっていく?」
「え? ご迷惑じゃ」
「銀子ちゃんなら大歓迎よ。それに、皆様もお泊まりになるって聞いているし、お部屋も余っているから、どうぞどうぞ」
「いやー、なんかすみませんっす。遠慮なくいただきます!」
さりげなく銀子のお泊まりも決定したところで、グラスに神獣が描かれたビールがトクトクと軽快な音を立てて注がれていく。
ビールの独特の香りが夏樹の鼻腔をくすぐった。
「うえ、ビールの匂いって苦手だな」
「ふはははははは、お子様じゃな、夏樹は! この香りと、一口目の苦味と深み、そして切れ味が、たまらんじゃろ! あ、あの、すみません、そろそろ乾杯しません?」
我慢できなくなった小梅が、丁寧な言葉を使ってお願いをするので、夏樹は湯呑みにお茶を注いで掲げた。
「では、夏樹のお友達が遊びにきてくださったことに乾杯!」
母の音頭で全員が乾杯した。
母、ジャック、ナンシーは、一口飲んだだけだったが、小梅と銀子はごっごっごっ、と喉を鳴らしてビールを一気飲みしてしまう。
「かーっ、たまらんのう! ここしばらく金がなかったんでビールなんぞ飲めんかったから最高じゃ!」
「かーっ、たまんないっすね! 労働のあとのビールは最高っすよ!」
口元にたっぷりの泡で髭を作った小梅と銀子は、「いただきます!」と言ってお寿司に箸を伸ばす。
小梅は大トロを選び、軽くちょんとお醤油をつけると一口だ。
「あー、口の中でとろけるんじゃぁ。転生したら日本人になりたいんじゃよ」
だらしのない顔をして喜んでいる小梅の隣では、ウニを取り口に頬張っている銀子がいた。
「たまんねぇ……寿司とか一年位食べてなかったす。ウニ最高っすよぉ!」
「あらあら、ふたりともたくさん食べてね。ジャックさんとナンシーさんもどうぞ」
「ありがとうございます」
「いただきますわ」
ジャックとナンシーも美味しそうにお寿司を食べ始める。
夏樹も、箸を伸ばしてエビを食べた。
(カッパ巻きがない……そういえば、河童が存在するって言っていたけど、遠くない未来に河童とカッパ巻きを食べる展開もあるのかもしれないな)
天使ルシファー、宇宙人グレイを前にして、日本人らしく河童に思いを馳せるのだった。
〜〜あとがき〜〜
のほほんと食事する回でした。
次回、「彼」について銀子さんと話をします。
ちなみに優斗くんは泊まりに来たことはありません。一登くんはかなりあります。
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