15「殺しかけたけど俺は悪くなくね?」②





 都が気を失い、夏樹が疲れたようにため息をつくと、ひとつの気配がなかなか早い速度で近づいてくるのがわかった。

 都と同じ霊力を持つ、霊能力者だ。


「――都、無事!?」


 屋上に飛んできたのは、夏樹よりも少し年上の少女だった。

 まず視界に入ったのは、ブリーチした金髪だった。

 続いて、胸元にはチョーカー。ブラウスのボタンを外し、少しだらしなさが見える。紺色のスカートを履き、靴下、ローファー。腰にはニットを巻いている。


(あわわわわわ! ギャルだ! 生ギャルだ! どうしよう、話したことないんだけど!)


 ギャルという言葉が適切かどうかもわからないが、夏樹とは今まで縁のない雰囲気の少女だった。


「だ、だだだだ、誰?」

「なんで、吃ってんの? 都は、よかった。無事ね。一瞬、霊力が消えかけたと思ったら、ありえない魔力を感じたからなにかあったのかと思った」


(身体を真っ二つにしちゃった、とは絶対言わない方がいいね!)


 明らかに都の心配をしている少女に、口が裂けて殺しかけましたとは言えないし、言う必要もない。

 そもそも目の前の少女が、都の様に突っかかってくる可能性がないわけではないのだ。


(次はもっと手加減して対処しないとね)


 残念ながら、水無月都は大した実力はなかった。

 もしかしたらそれなりに戦えるのかもしれないが、少なくとも夏樹にとって取るに足りない相手だ。慢心ではなく、経験から導き出した結論だ。実際、相手にならなかった。

 警察署の署長室にいた女性警察官の剣士のほうが、よほど強そうだと思う。


(潜在能力ながら、水無月都よりもこの人の方が上だけど……うーん、ちゃんと成長できていないのか、未発達すぎるなぁ)


 金髪の少女を眺め、夏樹はそんな感想を抱いた。

 磨けば光るだろうが、今は都同様に相手にならないだろう。戦う必要さえ感じない。

 吃らないように、深呼吸をすると、夏樹は訪ねた。


「君は……水無月家関連でオーケーですか?」

「うん。あたしは、都の姉の水無月澪」

「お姉さんでしたか」

「……当主のママから、都が早まった真似をしない様に見ていろって言われたんだけど」

「もう早まった真似しましたけどー」

「ごめん。本当は放課後に接触するはずだったんだけど、この子、あたしの言うことなんて聞かないから」


(なるほど、姉妹か。通りで力の波長が似ているわけだ。でも、うーん。この人の方が、少し歪?)


 都の姉を名乗った澪に、違和感を覚えながら、夏樹はとりあえず話を先に進める。

 この場に来たということは、すでに一戦やらかしたことも把握しているだろう。

 慌てて『ヒール』を使ったので、魔力を適当に使ってしまったこともあり、感知されていても不思議ではない。

 澪が把握しているのなら、水無月家にもすでに伝えられている可能性がある。


(さて、どうしようかな。水無月家とかには興味はないけど、霊能力には少しだけ興味が湧いた。それに、もし利用できるなら、利用してもいいかもしれないよね)


 特別話術に秀でているわけではない。交渉もできやしない。だが、日本で快適に過ごすために、霊能関係の家を後ろ盾にするのはいいことかもしれない。

 わざわざ使いに寄越した少女たちが、この程度ならば、おそらく当主という母も大したことはないだろう。

 趣味ではないが、力で脅すことも視野に入れよう。

 女性警官のように異世界の武器でなんとかなるなら、それでもいい。


「とりあえず、質問。敵対する気はあります?」

「ないよ。水無月家は、敵対する気はゼロ。だから、早まった都の関しては本当にごめん。しかるべき罰を受けさせるように進言する」

「なら、それでよしとしましょう。で、水無月家はなんで俺のことを知ったの? 午前中に力を使ったせいだとしても、家が動くには早くないですか?」


 水無月家とは関係なく、都の独断であればわかる。

 しかし、水無月家がわざわざ当主の娘が夏樹に接触を図るのには時間が早すぎる。

 笹原署長は、霊能関係のまとめである『院』に報告しないと言っていた。守秘義務があるようだが、古い一族との繋がりは切れないものだ。もしかすると、警察官の誰かが通じていて、自分の身元を伝えた可能性もある。それでも、早い。

 よほど自分たちの力に自信があるのか、それともなにか別の理由があるのか、夏樹は気になった。


「午前中の力と雷は、あたしもわかった。でも、ママは違うよ」

「え?」

「昨日の夕方、君――とんでもない力を使ったみたいね」


(力なんて使ったっけ?)


「あ、ああ! あの無意識に使ってみたやつか! あれ、そんなに力が強かったんだ! 適当だったのに!」


 晩御飯までの間に、なんとなく魔法を使ってみたときのことを夏樹は思い出した。

 適当に魔力を使っただけだったのだが、まさかそのせいでこの地域の霊能力者に感知されているとは予想外だった。


「よくわかんないけど、あたしも都も、家の他の霊能力者もなにも感じなかった。ママとママの護衛だけが君の力がわかったみたい」

「あれかー! あれでバレちゃったのかー!」

「君の力が強すぎるから、あたしたちには認識できなかったんだって。ねえ、君ってそんなに強いの?」


 澪の疑問の声は、確かめるのではなく、どこか期待している様に聞こえた。

 夏樹はドヤ顔をして、言った。


「ええ、まあ。超強いですけど?」





 〜〜あとがき〜〜

 ようやくヒロイン(候補)登場です!

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