第110話 あなたのおもうままに

 下校時間になって、校門での別れ際に、陽花がこんなことを言う。


「負けないでくださいね、青虎くん」


「ん? ああ、そうだな。先輩の胸を借りて、できる限りのことをするよ」


「そういう謙遜じゃなくて、ですね」


 陽花が少しだけ不服そうに、俺に詰め寄った。


「わたし、青虎くんを見ていると、勇気が出るんです」


「勇気?」


無能力者レベルゼロなのに、生徒会長に勝って、学園の派閥に属することもなく、能力者の校内選抜大会を勝ち上がっていく。わたしは、負けてしまいましたけど……」


 自分は負けてしまった、だから俺に後続の期待を託そうというのかな?

 俺がそんなふうに考えていると、陽花は俺の思いもしないことを言う。


「わたし、青虎くんを見ていると、自由になれる気がするんです」


「??? どういうことだ?」


「おもうままに生きて、おもうままの自分になれる、そんな気がするんです」


 多くを語らない陽花が、ニコリと美しく笑った。


「だから負けないでください。青虎くんに勇気をもらったわたしが、ここにいますから!」


 「また明日!」と手を振って、陽花が去っていった。

 勇気をもらったのは、俺の方かもしれないな……

 能力者校内選抜大会、第二回戦の朝が来る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る