第24話 協力者。みんな『仲良く』できないかな?
着地ポイントは邸内つったっけ。トグルを引いて右に旋回する。
思ったより難しいなこれ――と思った直後、激しい突風が俺たちを襲った。
やべ! みんなバラバラに!? たしかバラけちまったら、とにかく城内の一番高い塔を目指せつってたっけ!?
ああもうクソ! もう城壁があんな近くに!?
着地方法はえっと足裏、ふくらはぎ、ふともも――うぇっ!? やべ、か、壁が!
「わわわわわわ、ちょ、とまれ!」
そのまま俺は抵抗すらできず壁にぶつかって、その衝撃で目の前が真っ黒になった。
何回気絶すんだ? 俺って――。
再度意識を取り戻したのはそれからどれくらいたった後かな?
とにかくなんかこう柔らかいものに包まれていて、果物のみたいな甘い香りがしてさ。
「やんっ! ちょ、ちょっとくすぐったいです」
そうそう、だいたい大きさはこんな今が旬のウォーターメロン――そんな感想が頭にわいてすぐ全力で俺はまぶたを開けた。
「あ!? 気がつかれましたか?」
「うあああああっ!? だ、誰!? あんた!?」
またしても女性の胸の中で目覚めた俺は飛び避けた。しかも今度は見知らぬ女性。
不可抗力とはいえ申し訳ない気持ちでいっぱいになる。そろそろ訴えられるんじゃね? 俺、守護契約士なのに……。
「そうですよね。まずは自己紹介からですよね。わたくしの名前は――」
目の前のこの長く玉虫色を思わせる瑠璃髪をした女性は、マイペースに自分を『レアネラ=ディーリア』と名乗った。
なんかアセナとは別の意味で良いところのお嬢様って感じだった。
高貴つーかなんつーか。一応俺も名乗っておくか。
「エル、エルさんって言うんですね」レアネラさんは笑った。「いきなり空から降ってくるんですもの、びっくりしました」
「レアネラさんが助けてくれたんすか?」
「はい」軽くうなずいて見せる。「どうぞレアとお呼びください」
そういうので重ねて彼女の事情を聞いてみる。
深夜道端で倒れている俺を担いで運んできたと言った。さらに彼女は自分が科学者とも。
なので今いる場所が自宅兼研究室だという。
言われて見ればテーブルの上には書類やら試験管やらフラスコやらが散乱している。
「そうか、ありがとう、じゃ――俺はこれで」
「待ってください! まだ外では兵がうろついています。今は出るのは危険です」
どっかで聞いたことのあるセリフだけど、うっすらカーテンの隙間から、兵士が横切っているのがのぞけた。
「つーか、俺が追われているってよくわかったすね?」
「兵士がこの周辺で黒髪の【紅血人】の男を見なかったかって聞き込みをしているんです」
それに【紅血人】はこの広場ではまず見かけることはないと言った。
もちろんこっちも危険なことは百も承知で潜入している。もう一度隙間から俺は白い巨城を見た。あそこにアセナが捕まっている。早く助けに行かねぇと。
「それでも俺はあの白い城に行かなきゃいけねぇんだ」
「城って……ああ、【月季城】ですか」
そんな名前をナキアさんが言っていた気がする。宮殿、後宮、クローディアスが執務を行う官邸、議事堂などが合わさった複合施設だとか。
「なら付いてきてください。訳があって、あそこの近くまでわたくしも行かなくてはならないのです」
と胸に手を当てレアさんは言う。
なんだこの女性。自分から進んで共犯者になろうとしてんだ? かといって怪しい感じもしない。訳が分からねぇ。ここは誘いに乗るべきか、それとも――。
「ならこうしましょう。【月季城】まで道案内する代わりに、わたくしの仕事も少し手伝ってくれませんか?」
もたもた悩んだらそんな条件を出してきた。それならまぁ、いやでもなぁ……。
「この提案をのんでくれないのなら――叫びます」
「は?」
「ここに不審者がいるって叫びます」
「いや、ちょ、ちょっと待――」
「おまけに胸も触られたともいいます。さあ、どうしますか!?」
すげぇ
案内されたのは地下道。床下収納からそんな場所につながっているなんて夢にも思わない。
肩から下げた銀色のライフルをカチャカチャさせ、レアさんは俺の前を先導する。
「ここは限られた人間しか知らない。要人専用の秘密通路でして、ここを通れば城の真下に出られます」
「つーか、なんであんたがそんなことを知っているんすか?」
「……えっと、それは――秘密です」
多分教えてくれないとは思っていた。今は悩んでも仕方がない。背に腹は代えられないし、彼女を信じてみよう。
事実、地下道では誰とも遭遇しなかった。でもなんか――。
「悪りぃレアさん。ちょっと聞きてぇんすけど?」
「なんですかエルさん?」
「城からどんどん離れてね? あくまで俺の勘だから間違っていたら悪りぃけど」
自慢でも自惚れてもいねぇけど、生まれてこの方、俺は道に迷ったことがない。
正直、もし罠なら罠で早めに対処しておきたいという思いも少なからずあった。
「行く前に約束したじゃないですか、わたくしの仕事を手伝ってくれるんでしょう?」
「そりぁ言ったっすけど――」
渋った俺に、レアさんは胸を指して小悪魔にほほ笑む。ぐぅ……くそ。
「心配しなくても大丈夫。もうすぐ着きますし、その後の案内もちゃんと致します」
ほら、と指した通路の右端に大きな鉄扉が、しかも壁の劣化具合に比べて真新しい。明らかに最近になってつけられたのが分かる。
不用心にもロックはされていない様子だった。
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