ニ トラウマの発掘 四

 全身をさいなむ痛みに顔をしかめつつ、身体を起こして足をスリッパに滑らせる。


「どうにか……なりそうです」

「では、診察室へいきましょう。なにかありましたらご遠慮なくおっしゃってください」

「ありがとうございます」


 室野につきそわれ、三宅を追う形で岩瀬は診察室へと案内された。数分ですんだ。


 何科であろうと、診察室はそれほど変わらない。その辺り、皮肉にも慣れたものだった。


「まずはそちらのベッドに横になってください。少し検査することがありますので」

「はい」


 そこからは、三宅が足や膝をつついたり頭をおさえたりした。痛みはするが耐えられないほどではなかった。


「結構です。起きて、こちらの椅子にかけてください」

「はい」

「検温しますので、そのままで」


 室野が体温計をだし、岩瀬の額にかざした。平熱だった。次いで、岩瀬は上半身をはだけて聴診器を胸に当てられた。これもすぐ終わった。


 三宅は軽くうなずき、何枚かの白黒写真を自分の机に備えた透写板につけた。自分の手足や頭の写真だと理解するのに時間はかからなかった。レントゲンかなにかだろうが、細かくはわからない。


「あなたは夕べ、ご自宅のアパートにある階段から転落しました。それは覚えてらっしゃいますか?」

「はい」

「それから善意の通行人が通報して、救急車でここまで運ばれました。検査の結果は軽い打撲と脳震盪ですが、いずれも後遺症がでるようなものではないですね」

「ありがとうございます」

「ほかに、処方を受けていた病気や薬品はありますか?」

「あー、その……」


 岩瀬はかいつまんで自分の抱える障がいについて説明した。三宅は終始冷静に、口を挟まず最後まで聞いた。


 相手はプロの医療従事者達だ。遠慮することはないし、へたに隠すとかえって自分の首を絞める。理解しているつもりだし、普段からなるべく自分のことは客観的に見据えようともしていた。だから、立派に説明は果たせたのだが……ホラフキさんまではさすがに口にできない。どのみち関係なくなったはずなのに、自分から改めて首をつっこむことになるかもしれない。歯切れのいい口調とは裏腹に、はやく『本来の』担当医に相談したかった。


「わかりました。となると、合計二回分の服用が飛ばされましたね。発作は起きてませんか?」

「ええ」

「あいにくと、そうした症状についてはご担当医に直接かかっていただくほかありません。一応、診療記録をだしておきますのでご持参ください」

「わかりました」

「あと、湿布をおだししておきますね」

「ありがとうございます」

「これで当院での治療は終わりです。失礼ながら、保険証は私どもで確認ずみです。治療費につきましては窓口でご確認ください」

「はい」

「お大事に」


 てきぱき処理が果たされて助かった。

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