第110話帝都制圧戦
―帝都上空―
闇夜に乗じて、俺たちは帝都付近まで侵入する。
「隊列を維持。残留部隊の対空砲火があるかもしれない。警戒態勢で突き進む」
俺がそう指示すると「了解」と部下たちが叫んだ。今帝都は、ほとんどの戦力を決戦に振り分けているだろうから、守備隊は最低限しか残っていないはずだ。さらに、戦意は低い。だが、前宰相派の過激派が、ウイリーを暗殺しようと動くことや人質にする可能性は残っている。
よって、俺たち先行隊の主目的はウイリーの身柄を速やかに確保して、今回のクーデターの大義名分を確保すること。下手にウイリーを殺されてでもしまえば、ポール派は傀儡の皇帝を立てて国家を2分することだってできる。この戦争中にそんなことが起これば、敗戦は間違いない。まあ、戦争中にクーデターを起こすのもかなりの禁じ手だが……
「クニカズ将軍。対空砲火です。8時の方向っ!」
「俺が魔力防御陣を敷く。その影響範囲から離れるなよ!」
やはり首都防衛隊の反撃が始まった。ただし、複数配備されている対空砲火は8時の方向からしか飛んでこない。おそらく、俺たちと戦いたくない兵士たちがサボタージュしてくれているんだろう。なら、抵抗する勢力だけを排除すればいい。
「了解! 対空砲火は首都防空第103隊からだと思われます」
「103隊の指揮官は?」
「ポール派の重鎮、ラドクリフ中佐です」
「あいつかっ。俺が対空砲火を潰す。その後は第1小隊と共に宮殿に向かう。他の者は元老院や省庁の制圧に動いてくれ」
「了解」
首都制圧戦が始まった。
※
―首都防空第103隊―
「ついに来たぞ。いまいましきクニカズだ。撃ち落とすぞ。あいつを撃ち落とせば、金と地位は思いのままだぞ」
「中佐。しかし、他の部隊は動きません」
「我らに歯向かうものはすべて賊軍ぞ。クニカズを撃ち落とした後に、軍法会議にかけて処刑する。構うものか。今が手柄を立てる好機ぞ」
ふん。クニカズめ。慌ててクーデターを起こしたようだが、その程度の少数兵力では首都を制圧なんてできるわけがない。我々が負ければ、お前らも終わりだ。我々だけで死ぬわけにはいかないんだ。お前とできる限りの臣民を道ずれにしてやる。この戦争ではもう勝てないのはわかっているのだからな。
「クニカズ隊の主力から高魔力反応!!」
そんなことを考えていると、ありえない報告が飛んできた。
「何を言っているんだっ!! あの程度の軽装備の航空魔導士の攻撃可能範囲は、1キロが限界だぞ。ここからクニカズ隊までは3キロ以上ある。ただの威嚇だ。待避せずに攻撃つづけ……なぁ」
普通に考えれば、常識的な判断だという自負はあった。だが、その自信は簡単に砕かれた。目の前に突然、魔力の光が見えた。そこからはまるで時が止まったような感覚に陥る。ゆっくりと俺をめがけて飛んでくる攻撃。本能的に避けようとするも、鉛のように重く少しずつしか動かない体。死にたくない。そう思った瞬間に俺の意識は途絶えてしまう。頭部に攻撃が直撃した衝撃をわずかに感じ、俺は死を理解した。
「ありえな……」
最期の言葉は途中で途切れる。周囲には轟音が鳴り響いた。
※
『すげぇ。あの距離で精密射撃……』
『敵砲台、完全に沈黙』
『制圧に向かった小隊から報告。残った兵も武器を捨てて投降しています。指揮官ラドクリフ中佐の死亡も確認されました』
「よし、一気に王宮に向かうぞ」
俺は猛スピードで王宮の制圧に向かう。絶望した過激派が最悪の選択肢を取る可能性もある。今回はスピードが一番重要だ。クリスタとターニャが後から陸上部隊を率いて帝都に向かっている。ポールの軍勢は、グレア帝国の主力部隊と対峙しているから引き返す余裕もないはずだ。
数の差は圧倒的だから主力部隊が来てくれればほとんど無血開城が可能になるはず。
俺たちはさながら空挺部隊だ。戦争の初戦に敵の重要拠点や後方を強襲しかく乱する。ただし、軽装備のため主力部隊の後詰めがなければどんなに精強でも簡単に制圧されてしまう。だから、主力部隊との連携が重要だ。
実際、ロシアのウクライナ侵攻において、初戦でロシア軍がウクライナの空港等に空挺部隊を投入したが、制空権が確保できずに主力部隊との連携もうまく取れなかったせいで大損害を被った。降下した部隊は援護もなく敵陣の中央で孤立し各個撃破された。最精鋭部隊が壊滅するというショッキングなニュースは士気にも重大な影響を与える。
俺たちは王宮の中庭に降下する。さすがに、王宮を丸ごと攻撃することはできないからここからはウイリーの身柄を確保する。
さすがに、敵もそれを探知していたようで弓矢や魔力で攻撃を仕掛けてきた。
「みんな、俺から離れるなよっ」
ダンボールの防御ですべてを遮断し、こちらから反撃する。壁に隠れようとしていた敵も追撃で排除した。
「よし行くぞ。狙うは3階の皇帝陛下の寝室だ」
中庭に戦力を集結していたのだろう。そちらを制圧したことで反撃をほとんど受けることもなく簡単に3階まで進出した。
『動くな、クニカズっ!! 動けば皇帝の命はないぞ』
寝室の前でひとりの若者が立っていた。手には魔力をまとっている。いつでもウイリーの寝室に攻撃が可能となっている。
まずいな。
「あいつは誰だ?」
俺は部下に確認する。
「ポール将軍の息子で、ナウル中尉です。近衛騎士団に所属していたはずですが」
「まさか、近衛騎士団からまで裏切り者が出るとはなっ」
「いいか、お前たちが一歩でも動けばこの部屋は爆発で消滅する。わかっているだろうな?」
ポールの息子は完全武装した長身の若者だが声は震えていた。金髪の髪の毛がフルフルと震えている。
「ここは父上のためにも守り切るっ!!」
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