第104話 まさに悪魔
俺は敵の腕章持ちに取り囲まれた。数的な不利。部下たちは前線で航空魔導士たちを撃ち落としている。とりあえず、基地防衛は成功したな。損害は軽微で、反攻作戦ののろしを上げるための戦力は維持できた。
『いくら空戦のトップエースでも、3人のエースに取り囲まれたらきついだろうよ』
『ここであんたの伝説も終わりだ』
『悪く思うなよ、ヴォルフスブルクの悪魔さん?』
随分と勝手なことを言ってくれる。さすがにきついぞ。
『フォーメーションBだ。お前たち遅れるなよ』
ちっ。ここで勝負してくれるなら同士討ちを狙おうと思ったのに……だが、こいつらを倒さなくてはいけないことに変わりはない。
仮に俺が逃げれば、反攻作戦に必要な部下たちが狙われる。それだけは避けなくてはいけない。
3人の敵エースは、俺の後方にいる部下たちに向かって猛スピードで接近する。
「やらせるかよ」
俺は有利な後方を取ったことで敵の誘いに乗って追撃する。
3人のうち2人が左右に展開した。やはりこうなるか。空中戦における集団戦法で最も基本になるスタイルだ。
ひとりが囮となり敵の前に行き、そちらを狙って敵が猛追すると、他の戦闘機がいつの間にか後ろに陣取って攻撃してくるってな。
戦闘機は基本的に後方攻撃は得意じゃない。だから、最も基本は敵の後ろに陣取って一方的に攻撃を仕掛けることだ。
航空魔導士も後方への攻撃は得意ではない。戦闘機よりも小回りは効いても、やはり視界が制限される後方は弱点だ。
そう普通なら……
だが、俺には妖精の加護があるっ!!
『死ね、クニカズ』
そう、戦闘機の弱点である後方攻撃は科学技術の発展で克服された。俺が向こうで生きていた時の最新鋭機であるF-35は本来死角のはずの後方ですらミサイルで攻撃が可能となっている。
「センパイっ!!」
「頼むぞ、ターニャ!」
ターニャが後方への攻撃を制御し、正確無比に敵のエース2人をとらえる。強力な妖精によって無慈悲に攻撃は敵に直撃する。
エースは爆発に包まれた。おそらく、何が起きたかもわからずに撃墜されただろう。
残された前方のエースは唯一何が起きたかは視認したはずだが、理解はできていないはずだ。時間差で俺の攻撃が直撃したのだから。
俺の周囲には3つの火球がゆっくりと落下していく。
「ミッションコンプリートだな」
※
―グレア帝国遠征軍司令部―
『大変です。ヴォルフスブルクの北方管区に向かった第1から第3航空団が全滅したようです』
「なんだとっ! 36人の航空魔導士たちが全滅!?」
「だが、あの部隊には腕章持ち3人がいたはずだが……」
『残念ながら引き返してきた第4航空団の報告によると、敵のトップエースによって一瞬で撃ち落とされたようです』
「まさに、悪魔か……」
※
―9月18日早朝・グレア帝国北部・ブルースト軍港―
「提督、艦隊の出撃準備が整いました。中央からの命令次第、出撃が可能です」
「ご苦労。壮観なものだな。グレア帝国北洋艦隊が一堂に会するのは……」
司令官室の窓からは、港が見えている。戦艦8隻、巡洋艦8隻。グレア帝国が持つ世界第2位の海軍戦力が目の前に集結していた。中央から許可が出れば、すぐにヴォルフスブルクへの海上封鎖に乗り出すことができる。そうすれば、海上交通路を制圧できる。グレアが必勝の局面になるだろう。
「すでに、南方戦線はこちらが有利な状況です。制空権は確保されていますし、唯一持ちこたえている敵の西方戦線も海上封鎖によって瓦解が加速するのは間違いがありません」
「来年を待たずして、戦争は終わるかもしれないな」
「はい。ヴォルフスブルクは解体されて、国際秩序は元に戻るでしょう」
「うむ。唯一の懸念は、ヴォルフスブルクの悪魔の動向だけか。奴によって、3人の腕章持ちがやられたらしい」
「ええ、地上軍は焦燥しているでしょうが……我々海軍は違います。魔導士たちでは、戦艦を沈めることなどできるわけがありません。我々には強力な大砲と機動力、そして防御力があります。巡洋艦程度の規模であればもしかするかもしれませんが、我々の持つ8隻の戦艦はその限りではありませんよ」
「そうだな」
それが世界の常識だ。たしかに、魔導士の攻撃力は脅威だが……
海上で動く戦艦に攻撃を当てたとしても、ダメージは軽微で作戦は続けることができる。さらに、敵は戦艦への攻撃に力を使い果たしてしまい帰投する力はなくなる。片道切符の特攻のようなものだ。
「うん?」
「いかがされましたか、提督?」
「今、窓の横を何か黒いものが横切ったような……」
「まさか……ここは3階ですよ? 市街地で魔導士の訓練など行うはずが……」
そして、次の瞬間。窓の外に見える戦艦・べアロンの甲板が爆発し炎上した。爆発の影響で、窓は割れ轟音が港に響く。
「なんだ、事故か!!」
自分のそのような声を否定するかのように、べアロンに横づけされていた戦艦・グランドブールが続いて爆発し炎上する。
他の戦艦からは対空砲火が放たれていた。その延長線上には、小さい黒い影が見える。
「提督、これは敵襲です」
「なんだとっ!?」
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