第103話空襲

 俺は司令官室で準備を整える。俺ができる範囲内で、反攻の準備を始めていた。幸運なことに、手元には帝国最強の部隊がいる。それも、隊員たちとは気心が知れている。彼らなら、俺が描いている作戦を完遂してくれる。その自信があった。


 あのポールの野郎のせいで、俺たちが築き上げたすべてが失われようとしているのだ。守るべき国民は、失政によって発生した戦争に巻き込まれて傷つき家をなくしている。こんなことは許されない。


 やるしかない。


「閣下。敵の航空戦力がこちらに向かってきています。数はおよそ40から60です。おそらく、航空魔導士隊だと思われます!」


「ついに来たか」


 できれば、作戦が始まるまでは戦力を温存したかったんだけどな。

 報告から考えられる戦力は、航空魔導士隊3から5個だ。敵さんも沈黙を守っている北方管区をかなり危険視しているな。すでに、帝国南部と中部は激しい攻撃に襲われている。敵が帝都を陥落させるためには、絶対的な制空権が欲しいはずだ。だからこそ、遊軍となっていて戦力が温存されているこちらを狙ってきたのだろう。


 南と中央軍は、すでにグレア帝国主力と一進一退の攻防を繰り広げている。

 西軍は、初動対応がうまくいき、戦線をこう着させることができている。


 あとは東軍と俺の指揮下の北軍だ。東軍は、ローザンブルク対策にうかつに動かすことができないので危険度は低いから、間違いなく敵は優先度が高いこちらを叩きに来ると思っていた、


「上げられる戦力は上がれ! 基地に敵を寄せ付けるな」

 クリスタはすでに指揮をはじめていた。


「クリスタ、防衛の指揮を頼む」


「ああ、やって来い」


 俺のことを信頼してくれている親友は笑って送り出してくれた。中将が前線で空中戦を繰り広げるなんて前代未聞だぞと目で笑っていたが。


 俺はゆっくりと外に向かった。


 ※


 俺が基地の外に出るとすでに攻撃が始まっていた。地上攻撃用の魔導士を円の中心において、それを護衛するスタイルか。敵は最も基本的な陣形だが効果があるものを使っている。


「クニカズ中将。お下がりください。敵は腕章持ちが3人います。いくら精鋭無比のあなたの部隊でも分が悪すぎます」


 部下の一人が慌てて止めに来た。

 腕章持ち。グレア帝国航空魔導士隊には、敵兵を5人撃ち落とすとエースに任命されて腕章をつけることが許されるらしい。だから、歴戦の勇者であり敵のエースのことを腕章持ちと呼んでいるのだ。


「安心しろ。将軍は、下手な腕章持ちじゃねぇよ。トップエースだ」

 辛苦を共にしている昔からの部下が笑っていた。すでにみんな準備万端らしいな。


「お前たちは、一番前の魔導士隊を頼む」


「クニカズ閣下は?」


「わかっているだろう? 俺は後ろの2つだよ」


 俺はそう言うと瞬時に空を駆けた。部下たちが続く。

 部下たちに先頭の部隊を任せて、まだ攻撃の余力がある中央の敵軍を狙う。


 中央の敵の数は約12。全員撃ち落とす。


 魔力を込めてダンボールを先鋭化させて敵に突撃させる。誘導兵器と化したそれが、敵軍を正確にとらえて次々に命中していく。


「なっ!?」

 中央のリーダーらしき魔導士は俺の姿を見て一瞬驚いたがすぐに墜落した。魔道具を狙って攻撃しているので、直撃したら終わりだ。


『まさか、クニカズ司令官自ら出てくるとはな』

 俺の攻撃を唯一逃れて敵のエースらしき男が俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。だが、遅い。すでにかなりの魔力を使っているので誘導はできないようだ。それなら簡単にかわすことができる。


『ちぃ』


 敵は焦る。だが、こいつにかまっている必要は特にない。俺の目的は地上攻撃を防ぐことだ。


 後方の部隊にも同様の攻撃をおこなった。正確無比な誘導攻撃が同じように敵の後続を撃破する。


『まさか、数十秒で20人以上がやられたのかっ!! 第4・第5攻撃隊は引き返せ。地上攻撃中心の編成の後ろじゃ簡単にやられるぞ。こっちの機動力が高い対空魔導士が相手にならねぇんだ』


 敵のエースがそう叫んだ。魔道具を使って後続の部隊に連絡を取ったのだろう。よい判断だ。


『敵の正体は、やはりクニカズだ。1対1では勝ち目がない。複数で行くぞ』


 そう言うと生き残っていた3人の敵エースが俺を取り囲むように動き始める。

 どうやら、ザルツ領で見かけたあいつはいないようだ。アリーナも。ならやってやるぜ。


 俺は敵に向かって突進した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る