第101話大陸の憂鬱
歴史書は語る。
帝国歴2年。それは、血塗られた歴史の始まりだった。
帝国歴2年8月1日。ヴォルフスブルク帝国建国記念日の祝典で未曾有のテロ事件が発生。後に、血の建国記念日事件と呼ばれるそのテロ事件は、女帝・ウィルヘルミナ1世やアルフレッド将軍が重傷を負い、宰相と軍務大臣を失うという帝国にとっては悪夢のような1日となった。
旧首脳部を失ったヴォルフスブルクは、ポール軍務局長(軍務大臣代理)を中心に再編され、彼の政敵であり救国の英雄ともてはやされたクニカズ将軍は、左遷されて実権を失う。クニカズ派は、中央からほとんど締め出されてしまい、ポール派が軍部の実権を握ることになった。
このクニカズ派とポール派の対立は、ヴォルフスブルク王国時代の女王派と宰相派の対立から端を発しており、女王派の3巨頭であったウィルヘルミナ1世・アルフレッド将軍が負傷し長期の療養を強いられたことにより、今まで非主流派に追いやられていた旧宰相派の復権につながったというのが現在の定説でる。
同月15日、ヴォルフスブルク政府は、テロ組織の温床であった旧・ザルツ公国領に対して、徹底的な捜査を行うことを宣言し、「ポールの焼き討ち」とまで言われる過激なテロ取り締まり政策を実行した。一部の政府軍は、無実の罪をでっち上げてまで民衆を弾圧したと言われている。
ただでさえ、反帝国感情が強かった旧・ザルツ公国領の民衆はこれに反発し、各地で暴動が発生。同月21日は州都においても大規模な暴動が発生し、ついに政府軍と民衆が衝突し両陣営に多大なる犠牲を出してしまった。
これは受けて、ザルツ公国と縁が深かったグレア帝国は、ポール率いるヴォルフスブルク政府に対して、これ以上の軍事行動や弾圧を抑制するようにと宣言を出した。
しかし、ポールは「今回のテロ事件は、すべてグレア帝国が裏で糸を引いていた。我が帝国領土内で起きている暴動もグレア帝国が裏で支援している」と批判し、グレア帝国の宣言を黙殺した。
これを受けてグレア帝国宰相府が発表した文章を下に引用する。
「グレア帝国宰相府、9月1日発表。我が栄光ある帝国陸海軍及びマッシリア軍は、本日未明、旧ザルツ公国との国境付近においてヴォルフスブルク帝国と戦闘状態に入ったことをお知らせします。(中略)大陸全土の平和に対しての我が国のあらゆる努力にもかかわらず、ヴォルフスブルク帝国にはそれを受け入れる意志はありませんでした。よって、旧ザルツ帝国領内で弾圧されている同胞たちのためにも、我々は断固として悪魔のようなヴォルフスブルクを排除するために立ち上がらなければならないのです」
こうして、大陸は未曾有の大戦へと突き進んだのだった。
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