第91話摘発
情報は少しずつ集まってきた。
ザルツ公国残党の軍人たちが中心になって、暗躍する部隊が作られていることが分かってきた。さらに、どうやらヴォルフスブルク非主流派の一部もそちらに同調する流れがあるらしい。
「弱ったな。まさか、内部にも裏切り者がいるのか」
俺は課長が作ってくれた報告書を読み、ため息をついた。
「ええ、かなりゆゆしき問題だと思います。局長は、内部協力者に対して心当たりはありませんか?」
「確定はできないが、おそらく前・宰相派閥の誰かが動いているんじゃないのかな。内部で動機があるのはそいつらだろうから。前宰相の失脚で、本来ならば主流派の彼らが中央からことごとく追い出された。それを恨んでいる者も多いだろうし」
「それにクニカズ局長を重用することは、非主流派からは嫉妬されやすいでしょうからね」
俺は苦笑いしながら、「ああ」と答える。まあ、鈍感系軍人じゃないからそこらへんは自分でもわかっている。
本来主流派にいたポール軍務局長なんかは特に俺を敵視しているのがよくわかる。俺は身分も不詳で、ぽっと出だ。女王陛下に重用されていることを憎々しく思っている者も複数いるのは理解できる。
「とりあえず、旧ザルツ軍人たちの監視と共に、前宰相派の人間たちも監視を強めないといけないな」
「ですが、絶対的に人員が足りません」
「だよな」
実際に俺たち情報局は、まだできてから半年くらいしか経過していない。よって、まだ手探り状態だ。
さらに、人員も実務と一緒に育てているので、どうしても絶対数が足りない。現在は、重要ではない国に派遣していた局員を呼び戻して無理やり人員を増やしている。
「このままだとじり貧だな」
「どうしますか?」
「これ以上の監視強化は現実的ではない。幸運なことに、ザルツ公国残党は不法行為である武器を貯めこんでいる。こちらはすでに倉庫の場所もつかんでいるから、奴らを逮捕できるだろう」
これでザルツ公国残党を監視している局員を解放することができる。
「ですが、あいつらに私たちが把握している以上の協力者がいたら……」
「ああ、それはもちろんリスクがある。だが、政権内部にいる裏切り者のほうがはるかに危険だ。そちらに集中しよう」
結局のところ、リソースは有限だ。どこかで選択と集中が必要になる。
「わかりました」
「なら、明日の夜に摘発に踏み切ろう。両課長は、他の省の担当者と調整してくれ」
「はい。局長はいかがいたしますか?」
「大丈夫だ。俺が現地で指揮を執る」
※
俺はそのまま、情報局でも有数の魔力の使い手を連れてザルツ公国の旧・首都に向かった。
そちらの郊外にある倉庫に、武装蜂起用の武器や物資が隠されていることはすでにつかんでいる。さらに、テロ組織の幹部たちが定期的に倉庫に集まって密談していることも報告されている。
俺は部下たち用に、前線部隊の時に作ったコネを使って空中浮遊ができるようになる魔道具を確保している。
これで高速で移動が可能だ。敵は今日、強襲されるとは思っていないはず。武装蜂起のための物資をすべて失えば、敵の戦略に大きなダメージを与えることができる。
倉庫には局員ひとりだけが監視をしているだけだ。
俺たちは倉庫が近づいたら高度を下げて、森に紛れ込む。これで敵に気づかれていないだろう。
「局長、なぜここに!?」
まさか、俺が来るとは思っていなかった部下は、合流ポイントにやってきた俺に驚いた。
「最前線で戦いたい派でね。状況は?」
「旧・ザルツ公国第一師団長をはじめとする過激派が集結しています。倉庫の前には、数人の衛兵がいます」
彼は、非常に目がいい上に索敵魔力に才能があった。今回の監視役に最適だ。
「ありがとう。なら、都合がいいな。みんなは、俺が敵を全員確保できなかった場合は援護してくれ」
「しかし、ひとりで敵の衛兵をどうやって対処するんですか?」
「大丈夫だ、向こうでは
もちろん、ゲーム世界の話だが……
ステルスミッションゲームとかFPSとかも好きだったんだよな。下手だけどさ。それに蛇とダンボールは相性抜群と相場が決まっているからな。
「(センパイ、微妙にかっこ悪いです)」
妖精はそうささやいた。
「(いいんだよ。何も知らない部下が喜べばさ)」
『やっぱり、局長は向こうでは最強の諜報員だったのかもな』
『ああ、あまり過去を語りたがらないところもミステリアスでかっこいいぜ』
なんか少しだけ罪悪感を押し付けられてしまうが、夢を見せることは大事だよな。
とはいっても、ここでテロリストを確保できるかどうかは今後の状況に関わる。
俺は無慈悲に魔力を解き放った。
※
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます