第61話
「女王陛下、いまなんと!!」
宰相は、先ほどの罷免宣告が信じられないとばかりに聞き返す。
「残念ながら、私はあなたを解任すると言ったのです。あなたの忠義に感謝しています。今まで本当にありがとうございました」
「わたしを、解任する。なぜですか」
「あなたはずっと王国のために動いてきてくれました。信頼できる老臣です。しかし、さきほどクニカズ大佐も話したではありませんか。もう、歴史が変わってしまったんです。あなたの考えは古くなってしまった。ですから、宰相という重責をこれ以上は任せることができないのです。今後は経験豊富な老臣として、元老に列します。今後も厚く遇しますので安心してください」
「まさか、女王陛下。私よりも、その素性もよくわからないクニカズを取るのですか!? 私は一体何のために、ここまで国家に仕えてきたのですか。こんなことをされるためにですか。そうだとしたら私はとんだピエロです」
宰相はショックで椅子から崩れ落ちるように地面にはいつくばった。
「宰相……私たちはすべてを知っているのです。あなたが裏で、何をやっていたのかも」
女王陛下はついに核心をついた。
「なっ……」
「残念ながら調べはついています。あなたが他国にこちらの情報を流していたことは……これ以上抵抗すれば、我々はあなたを犯罪者にしなくてはいけません。すでに、あなたが陰で率いていた工作部隊はクニカズが壊滅させました。罷免に納得いただけますよね」
「ばれていた……まさか、なぜだ」
「国境紛争や軍港の機密漏洩。おかしなところはたくさんありました。そして、主要な機関に圧力が欠けられた痕跡があった。軍部や行政に圧力をかけることができる人間などそうはいないでしょう。あとは交友関係を調べて、拠点を割り出した。私直属の航空魔導士隊を秘密裏に派遣して、壊滅させた。もう、あなたを助ける存在はいないでしょう」
「嘘だ、ここで終わるなんて嘘だ」
「あなたを幽閉させていただきます。対外的には別荘で隠居と報道して名誉だけは守ります。大人しく従ってください」
女王陛下が合図をすると、近衛騎士団が宰相を無理やり連れて行った。
アルフレッドにはすでに話をつけていたが、やはり苦しそうだ。
今回の措置はどちらかと言えば宰相を守るのではなく、アルフレッドの名誉を守るための措置だ。ここでアルフレッドを失うのは痛すぎるからな。
これで障壁は排除した。保守派の最大の大物が失脚したことで、俺たちの構想を妨げる者はいなくなった。
2カ国目の超大国が誕生する。
※
そして、宰相を排除した後、速やかに憲法を成立させた。
国権と最高裁、議会の三権分立を明記して近代国家への脱皮を進める。
女王陛下は最高元首に君臨し、三権の助言によって国政を運営する。
現状では女王陛下が優秀過ぎるので、彼女がすべてを決める体制を維持していきたい。よって、助言程度に押しとどめた。その代わり、三権の長が全会一致の場合は元首はそれに従わないといけないというただし書きを加えた。
これで戦前の日本のように軍隊の暴走などを防ぐこともできる。
憲法の後はついに超大国建国だ。ヴォルフスブルク王国を中核に周辺領邦を取り込んだ大帝国の建設だ。
すでに、周辺領邦の中でも最も巨大だったシュバルツ公国とボルミア公国を軍門に降したことでほとんどがこちらに屈する状況となっている。
各公王たちは、大帝国で公爵として厚く遇する。安全保障は新帝国が保証することで平和的にこちらとの合併を認めさせるつもりだ。
そして、それを条文にしたのが、リーニャに作ってもらっている「大ヴォルフスブルク憲章」だ。
・新帝国への平和的な合併
・各公国に属している貴族たちへの厚遇の確約
・新帝国軍による安全保障
これらを柱にして憲章は作られる。これが成立すれば、各公国が保有している優秀な人材も継承できる。実際、ヴォルフスブルクの人材だけではグレア帝国に対抗することはできないだろう。
つまり、人材の層の薄さは、他国から補充する。戦略ゲームの基本的なやり方をおこなうってことだ。
「ですが、クニカズ? これでは独立を維持したい保守派を怒らせることにはなりませんか」
リーニャは心配そうに聞く。
「だろうな。だが、反乱がおきた方がチャンスだ」
「えっ?」
「包囲網の中核であったグレア帝国が避戦を貫いている以上、他国は介入できないはずだ。そのうちに反乱軍を共通の敵にして、新帝国内部を一致団結させる。おそらく、反乱軍は新帝国に加わらずに独立を維持するつもりであろうザルツ公国あたりと手を組むだろうから……」
「それを口実にザルツ公国まで併合してしまうんですね。そこまで……」
さすがにあくどい方法だとは思っていた。だが、そうしなければグレア帝国との将来起きるであろう大戦に勝てる見込みはない。
「ああ、ここからは覇道だ。自分でもわかっているよ」
「いえ、私はそこまで計算していることに驚いただけで……でも、たしかにこれなら……」
「ああ、新帝国は安泰だ」
※
「それでは、ただいまより大ヴォルフスブルク会議をはじめたいと思います」
王都でついに周辺領邦を集めた会議が開かれた。俺は女王陛下の護衛として会議に参加している。もちろん、会議の議長は女王陛下だ。
「まずは、議長国として皆さんの参加を心より感謝いたします。今回の議題は、従来より悲願だった大ヴォルフスブルクの復活にしたいと考えております」
かつて、大陸の覇権国家であった神聖ヴォルフスブルク帝国は、魔力発展前までは圧倒的な力を保有していた。しかし、魔力の発展でそれに乗り遅れた帝国は周辺諸国とのパワーバランスが逆転されてしまい、ついには現在の列強国との戦争に敗れて小国に分裂させられた経緯を持つ。
神聖ヴォルフスブルク帝国とローザンブルク・グレタ帝国・マッシリア王国の連合軍によるヴォルフスブルク戦争だ。
バルミリオンの戦いに敗れたヴォルフスブルクは完全に分裂させられて、神聖ヴォルフスブルク帝国の中核を担っていたヴォルフスブルク王国が余計な力を持たないように周辺諸国が包囲網を敷いて、飼い殺しにしてきた経緯がある。
だからこそ、ゲーム開始時のヴォルフスブルクは絶望的な状況になっていたわけだな。
だが、俺たちはその包囲網の
もう誰もヴォルフスブルクの統一を妨げる者はいない。周辺領邦もザルツ公国・シュバルツ公国・ボルミア公国以外の小国は、列強国の事実上の植民地のような扱いを受けている。いま、ローザンブルクがこちらから手を引き、グレア帝国が静観を決めているような状況であればこちらに加わりたいと思う領邦の方が多いだろう。
「異議あり! まだ、時期尚早だ。仮に、大ヴォルフスブルクが復活すれば、より政情は不安定になる。大陸すべての破滅すら考えられる」
反対したのはやはりザルツ公国代表だった。この国はグレア帝国との結びつきが深い。ヴォルフスブルクとも険悪な領邦だからな。
「では、いつならよいのですか」
「統一を前提に考えること自体が間違っている。ある程度の安定があるにもかかわらず、あえて波風を立てる必要はないと言っているのだ」
「それは、小国に一方的な犠牲を強いている今の状況の援護と受け取っておきます。ですが、弱者を斬り捨てて築く平和が本当の平和なのでしょうか」
勝負あったな。すでに、ほとんどの小国たちは、大国の代弁者であるザルツ公国を冷たい目線で見ていた。
「うるさい。このような会議は無駄だ。我が国は退出させてもらう!!」
続く国が出てくることを期待していたようだが、ザルツ公国代表の後には誰も続かなかった。
後ろを振り返って蒼白な表情を浮かべる代表は、怒りをあらわにしながら会場の外へと出ていった。
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