(Web版 第30話)
そこから現れた、大型の人型ゴーレム。
レベル上げのお供をしてくれていたダンジョンアイテム、西洋騎士のフィギュアが破壊されたのと引き換えに。俺はそのゴーレムに何発かの魔法を撃ちこんで、討伐した。
そして来た道を戻っていると、刑事のような雰囲気を持つ男性二人組とすれ違った。
「冒険者の藤堂さんですか?」
俺の名前を呼んできた彼らは、俺に名札を見せてきて言った。
「こういう者ですが……ダンジョンの外で、少しお話を聞かせていただいてもよろしいですか?」
彼らが見せてきた名札には、「全日本ダンジョン連盟」という文字があった。
彼らと、ダンジョンの出口へと向かった。
ダンジョンの中では、彼らはほとんど話をしてくれなかった。
「お話は外に出てからさせていただきますので……」と言われたので、俺も黙っていた。
何か職務上のルールがあるのだろうか。
彼らはふたりとも低姿勢で丁寧な態度だったが、強い圧を感じた。
俺は幸いにも、これまでの人生で警察のお世話になるようなことはなかったのだが。
無言の二人に挟まれながらダンジョンを歩いていると、「パトカーで連行される被疑者ってこんな気持ちなのかな」などと思った。
ダンジョンを出ると、プレハブ小屋の中でダンジョンの入場手続きをしてくれた中年女性が立っていた。
こちらの帰りを待っていたというよりは。ダンジョン入口の番をしていたように見えた。
彼女はもの問いたげな様子で、ダンジョン連盟の二人を見た。
彼らのうちの一人が彼女に頷き、もう一人はDスーツから何かを取り出した。
俺はすぐにそれが何か分かった。
『
俺の庭に反転ダンジョンが見つかったとき、業者や美都が使っていた機器だ。
男は手慣れた様子で計測器のトリガーをダンジョンに向けて引き、その値を確認した。
「高いままだ」ともう一人の男に呟く。
「ですね」
それから中年女性に、「封鎖しましょう」とダンジョンを指差して言った。
古墳ダンジョンの受付、プレハブ小屋の中に入ると、彼らは口を開いた。
「着替えられるようであれば、どうぞ」
「すみません。じゃあ……」
俺は貸しロッカーの中の荷物をとり、着替えのために持ってきた服に着替えた。
それから彼らに座るよう促され、テーブルについた。
「ダンジョン内に感知器が設置されていることはご存知ですか。あの、入り口付近にある黒いやつなんですが」
男は、上を指差して言った。
そんなのあっただろうか。注意して見ていないので、よくわからない。
「いえ、すみません。分からないです」
「そうですか。よければ今度見てみてください。どのダンジョンにもつけることが義務化されていますから」
「わかりました」
その感知器とやらは、俺になんの関係があるのだろう。
「この感知器なんですが……なんといったらいいかな。火災報知器みたいなものなんですよ」
火災報知器?
「火災報知器の場合、煙や……あとは熱ですかね。そういったものを感知して音が鳴ると思うんですがね。
ダンジョンに設置された感知器は、ダンジョンに異常が起こった場合に反応する仕組みになってまして。
今回は『D子濃度の急激な上昇』が感知されたので、通報を受けて我々が来たというわけです」
『D子濃度の急激な上昇……』
俺は頭の中で反芻する。
「入場記録を見る限り、さきほどから古墳群ダンジョンの中にいたのは藤堂さんただ一人だったのですが……何か心当たりはありますか?」
『心当たりしかないな……』
ダンジョンの壁をぶち抜いて新たな通路をつなげてしまった。関係があるとすれば、おそらくそのことだろう。
ダンジョン連盟の男性の口ぶりは、あくまで低姿勢だった。だが、目の光り方が異様に鋭かった。
「えっと……」
俺は心臓がどくどくと鼓動するのを感じながら、自分に起こったことを正直に答えた。
『疲れたな……』
自宅へ向かう車の中。
俺は運転しながら、そう思った。
ダンジョン連盟の二人組による取り調べ……というか、聞き取りは15分ほどで終わった。
俺が話したことを一通り聞き終えると。
男性は小さな手帳を閉じて、「ご協力ありがとうございました。何かご質問はございますか」と俺に尋ねた。
俺は素直に、「今回のことで、何か自分が罰せられるようなことはあるだろうか」と尋ねた。
ダンジョン内における迷惑行為は、冒険者登録の停止やはく奪、罰金などが科されるという。代表的なものだと、悪質なゴミのポイ捨てや、他の冒険者の迷惑になる行為だったが……今回のような場合はどうなのだろうか。
すると二人組は目くばせをし、こくこくと頷きあった。
そして一人が、頬を緩めて言った。
「後日、今回の件についての正式なご報告はご自宅に郵送させていただきますが、お話いただいた内容に間違いがなければ、藤堂さんの行動に非はないものと思われます」
それを聞き、俺はほっと胸をなでおろした。
後日、彼らの言っていたとおり封筒が届いた。
中に入っていた三つ折りされた紙の説明に目を通す。
「調査結果をご報告申し上げます」
紙には調査内容が記されていたが、その内容は簡潔だったため、紙には余白が目立った。
いわく、「
「ダンジョン規則第二十二条第二項により、該当する者(俺)に聞き取り調査を行った」こと。
「聞き取り調査の結果をもとに、ダンジョンの立ち入り調査を行った」こと。
結果として、「
またその後の解析の結果、「経路は数ヶ月前に生成されたものであり、あと幾日かすれば自然と本筋に合流していたであろう」とのこと。
「俺のとった行動(壁を魔法でぶち抜いたこと、そこから出てきた魔物を倒したことなど)はいずれも冒険者の権利を逸脱したものではなかった」こと。
よって、お咎めはなし。
そして、「
「この度は調査のご協力、誠にありがとうございました」
「末筆ながら、藤堂様の今後益々のご活躍をお祈り申し上げます 」
読み終わると、俺は居間のソファに自分の体を沈めた。
「良かったぁぁぁぁぁぁ……」
とりあえず、罰がないならそれでよしだ。
お祈りされたとおり、今後も冒険者活動を続けていくとこにしよう。
そして嬉しいことに。
「ふふふふふ……」
Dポータルを開き、もう何度も確認した残高をあらためて確認する。
【査定結果】
【D鉱石1:3732円】
【D鉱石2:3304円】
【D鉱石3:3275円】
【D鉱石4:4382円】
【D鉱石5:5986円】
【D鉱石6:4273円】
【D鉱石7:3592円】
【D鉱石8:4582円】
【D鉱石9:2592円】
【D鉱石10:2692円】
【D鉱石11:6592円】
【パーティーメンバー:1人】
ゴーレムダンジョンで得たD鉱石11個の売却益の合計から、ダンジョンの入場料を引くと。
儲けは3万9502円だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【読者の皆様へ】
お読みいただいているエピソードは「Web版」であり、書籍の内容とは大きく異なっております。
「もふもふ」「ちびっこ魔族」が登場するほのぼのスローライフ作品は、【書籍版(新連載版)】でお読みいただけます。
そちらを読まれたい方は目次を開いていただき、【書籍版・第一話】の方に移動されてください。
繰り返しのご説明、大変失礼いたしました。
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