(Web版 第26話)
冒険者専用アプリ、「
そのアプリメニューの一つに、「ダンジョン検索」がある。
タップすると、現在地周辺の地図が表示され。
その地図上で、一般に開放されているダンジョンを調べることができる。
このマップを見るのが、案外、楽しい。
各ダンジョンをタップすると詳細情報が確認できるのだが、「ダンジョンのレビューサイト」を眺めている感覚だ。
各ダンジョンのランクや入場料など、基本情報が確認できるのはもちろんのこと。
ダンジョンの特徴が項目ごとに5段階の星で評価されていて、他の冒険者のレビューを確認することもできる。
ちなみに俺が行った公共図書館にあるダンジョンの総合評価は……☆2.2。
周りにある他のダンジョンが最低でも☆3を超えているところを見ると、かなりの低評価だ。
「一本道で探索しやすいとはいえ、Gランクで入場料5000円は取りすぎでは?」
「虫とか甲殻類とか……鳥肌ものの見た目の魔物ばっかり>_<」
などなど。
『人気ないなぁ……』と思わず苦笑い。
他にも、「魔物がほとんど出てこない」という理由で低評価のダンジョンや、「ダンジョン前の設備が充実している」という理由で高評価のダンジョンなど。
『車で行ける範囲に絞っても、色んなダンジョンがあるらしい』とわくわくする。
反転ダンジョン内での、西洋騎士の使役フィギュアを歩かせるという超絶退屈なレベル上げ作業を繰り返す
周辺にあるダンジョンの情報やレビューを休憩時に眺めることで、なんとか自分のモチベーションを保っていた。
そして実質2日間、体感数週間の反転ダンジョン修行を終えたのち。
「ダンジョン検索」で
五台ほどしか停められない小さな駐車場には、一台だけ、白い軽自動車が停まっていた。
その駐車場に車を止め、少し歩くと。
『あ、これか』
目印となる石碑を発見。
「ダンジョン検索」で見たレビューの一つに、この石碑の画像がアップされていたのだ。
その隣から伸びる整備された階段を、一段一段上っていく。
左右を木々に囲まれているため、歩いているだけで気持ちがいい。
階段を上りきると、小高い丘の上にたどり着いた。
看板が立っており、その隣にプレハブ小屋がある。
なんとなく看板の説明書きを眺めていると、「冒険者の方ですか?」と声をかけられた。
プレハブ小屋から、年配の女性が出てきている。
俺はダンジョンスーツを着ていたから、一目瞭然だったのだろう。
「あ、はい」
「あの、冒険者の登録はされてます? ここのダンジョンFランクだから、カードを持ってない方は入れないんだけど……」
女性が、申し訳なさそうに言う。
「あ、大丈夫です。持ってます」
ポケットから冒険者登録カードを取り出す。
女性はそれを見ると、頬を緩めた。
「良かった。じゃ、中へどうぞ」
プレハブ小屋の中で、入場手続きをする。
冒険者登録カードと入場料を渡し。
引き換えにダンジョンのマップをもらって、手続きは完了だ。
レビュー通り、無料で利用できる鍵付きロッカーがあったので使わせてもらう。
背負っていくリュックサックの中を、使役フィギュア含め、持参したダンジョン用のアイテムだけにする。残りの荷物は、すべてロッカーへ。
アームシールドは左手に装備。Dスーツのベルトにこん棒をひっかければ、準備は万端だ。
「はい、お気を付けて。いってらっしゃい」
係の女性に見送られながら、プレハブ小屋を出てダンジョンへと向かう。
「ありがとうございます。行ってきます」
入口は、斜面にぽっかりとあいた穴。
まるで呼吸しているかのよう。
Dポータルで調べたときに、「ダンジョンの中が少し暗いかもしれません」というレビューもちらほら見かけたが。
『言うほど暗くないな』
リュックに入れてきたランタン型ダンジョンライトの出番はなさそうだなと思う。
俺は安堵し、先へと進む。
リチチチチチ……。
【100%】
『よし』
指から魔疲労チェッカーを外し、リュックサックに戻す。
今回のダンジョン探索の一番の目的は、二日間の反転ダンジョンでのトレーニング成果を試すこと。
「自分がどれくらいの回数・量の魔法が使えるのか」を確かめることだ。
この魔疲労チェッカーの測定目安は、「70%が要注意、50%が危険」。
余裕をもって80%、最悪でも75%を切ったら、魔法を使うことをやめて、来た道を引き返そうと考えていた。
果たして全体の20%にあたる疲労分で、どのくらいの魔法を放つことができるだろうか。
魔物を倒す際、強力な魔法をぶち当てることで、D鉱石のドロップ率をぐんと上げることができる。
一回の探索で、自分がどれくらい魔法を放つことができるのかは、稼ぎの効率に直結する重要なポイントだった。
『来た』
5分も歩かないうちに、道の先から向かってくる魔物が。
「4、5歳の子供が土ねんどで作った人形」みたいな見た目。
しかし大きさはそれなりにある。体長150センチくらいだろうか。
これまでに出会った虫もどき、ゴブリン、スライムなどに比べると、大型の魔物と言えそうだ。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
眼前の魔物が、こちらを威嚇するように音を立てる。
体のどこから出しているのだろう。砂利の上を車で走ったときの音みたいだった。
『これが……
【土塚古墳群ダンジョンのレビュー・評価】
[しがない冒険者86さんのレビュー(認証済み)]
6~7世紀ごろにつくられたという古墳が集まる場所。
そんな一風変わった場所に位置するのが、この土塚古墳群ダンジョンです。
駅やバス停は近くにありませんが、専用の駐車場があるので、車で行かれる方は問題ないかと思われます。
ダンジョンの中は光る苔が生えており、道もほぼ一本ですから、探索しやすさはGood。
ただし、出現する魔物に難ありです。
出てくる魔物は9割方がゴーレムなのですが、ご存じの通り、こいつは防御力高めの厄介モンスター。
物理攻撃との相性は最悪で、いくらぶっ叩いても、なかなか消えてくれません。
一体倒したときには、もう、全身汗だく!
Fランクダンジョンを主戦場とする冒険者にとっては、倒すのに手間も時間もかかりすぎるゴーレム。
そんな奴ばかり出てくるダンジョンになんて、わざわざ足を運ぶ理由がありません。
他ダンジョンでスライム狩りをしている方が100倍、いや1000倍マシ。
というわけで、私は大人しくそうします。
総合評価:☆☆
『バンッ』
ズガァァァァァァァン!!!!
銃の形にした右手。
人差し指から放たれた電撃が、
『おー、情報通り。物理はだめでも、魔法なら問題なく倒せるな。
……おっ』
黒い煙となったゴーレムから、何かがこぼれ落ちる。
駆け寄ると、こぶし大のゴロゴロした石。
ゴーレムがドロップしたのは、べっ甲色のD鉱石だった。
『よしよし……幸先いいな』
ホクホクしながら、それをリュックの中に片付ける。
リチチチチチチ……。
【99%】
『一発撃って、1%。なら20発くらいは撃っても大丈夫なのかな』
小数点以下の値が表示されないから、もしかすると1.3%ぐらいは減っているのかもしれないが。
とりあえず。
『撃ちまくってみますか』
気の遠くなるような、反転ダンジョンでのレベル上げ。
その鬱憤を晴らすべく、俺は古墳ダンジョンでのゴーレム狩りを開始した。
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