(Web版 第21話)

縁口ゆかりくちいちダンジョンの入り口フロアにある、ダンジョンショップ。


そのレジコーナーに隣接して、D鉱石の買取り窓口はあった。


カウンターの上には、「D資源取引所」と書かれたプレートが申し訳程度に置かれている。



「どうぞー」


カウンターにいたのは、やたらと声の低い30半ばくらいの男性だった。


「D鉱石の買い取りをお願いします」と美都が伝える。


「かしこまりました。では、こちらの用紙にご記入をお願いします」


用紙とボールペンが差し出される。


美都は必要事項をスラスラと埋めていった。


それから用紙を俺の方に寄せ、「この枠のところ、お願い」と言う。


「おう」

自分の氏名と、「冒険者識別番号……」


「あっ、冒険者カードの裏に書いてあるよ」


「おお、そうか」


俺は財布からカードを取り出して、裏面の数字を用紙に記入する。


『美都は暗記してるんだな、この番号……』


カードを確認せずに記入した美都に若干驚きつつ、並んだ数字を書き写す。


「ほい、書けた」


用紙を美都の方に戻した。


「ありがと」


美都は記入内容を再度チェックして、男性に渡した。「お願いします」


男性は用紙に指をあてて、確認した。

「売却益は、お二人で均等に分けられるということでお間違いございませんか」


「あ、はい。大丈夫です」と美都が答えると、男性はこちらにも顔を向けてくる。


「ええ、間違いありません」と俺も答える。


用紙に記入した上でさらに口頭で確かめてくるということは、よほどトラブルになりやすい項目なのだろうか。


「かしこまりました。ではこちらに、売却されるD鉱石をお願いします」


男性が大きめのトレーを差し出してくる。トレーには、灰色で波型の緩衝材が敷き詰められていた。


美都は3つのD鉱石を取り出して、その上に置いた。


ごく普通のスライム、スライムドーナツ、そしてスライムジラーフの群れを倒した時にそれぞれ得たものだ。


「お預かりいたします」


「お願いします。あっ、もう一件いいですか?」と美都が言う。


「どうぞ」


美都がこちらを見る。


俺は頷いて、持参した4つのD鉱石をカウンターに置いた。


このダンジョン複合施設に来る前に、D鉱石の買取窓口があることを美都が教えてくれたので持ってきたもの。


図書館ダンジョンで入手したD鉱石だ。


「こちらもお二人で分けられますか?」

男性がD鉱石を回収しながら、尋ねる。


「いえ、これは彼の分だけです」と美都が言った。


「かしこまりました」男性は用紙をもう一枚取り出し、こちらに差し出してきた。「ではお手数ですが、こちらにも記入をお願いいたします」


「はい」俺は用紙を受け取って、説明書きを読む。

必要事項を記入し、男性に戻す。


「ありがとうございます。では、こちらで査定させていただきます」


「よろしくお願いします」


応対してくれた、やたら良い声の男性に頭を下げて、俺たちはカウンターから離れた。



査定は10~15分程度で終わるらしいのだが、冒険者専用アプリ「Dポータル」を利用すれば、査定結果の確認から、売却の承認までできるとのことだったので、帰宅することにした。


美都の自転車がうちに停めてあるので、俺の家に向かって車を走らせる。



「ありがとね」と美都が言った。


道を出てすぐの信号に引っかかったところだった。


「ん?」と俺は聞き返す。


「ダンジョン探索。付き合ってくれて」


「ああ、こちらこそ。色々教えてくれてすごく助かったよ。ありがとな」


「ううん」


信号はすぐに青へと変わった。車を発進させ、左折する。


「良かったら、また一緒に行こう」と俺は言った。


「いいの?」


「もちろん。というか、ぜひお願いしますって感じだよ。俺一人だと、まだまだ分からないことだらけだからな……」


息遣いで、助手席に座る彼女の笑みが伝わってきた。


「ぜひぜひ!」



家までの帰り道、俺と美都はダンジョンの話で大いに盛り上がった。


無事、探索を終えたばかりで、どちらも気分がハイになっていたのだと思う。


『そういえば』と思い、俺は気になっていたことを幾つか尋ねた。


そのうちの一つは、D鉱石のドロップ率についてだ。


「ダンジョンを出てから話したい」と美都が言っていたので、ずっと頭に残っていた。


「ああ、あれはね……」と美都は教えてくれた。

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