第37話 華やかに生まれ変わったドレス


「陛下。……申し訳ございません。もしかしてお待たせしてしまったでしょうか」

 あまりに支度が遅くて、迎えに来させてしまったかもしれないと焦った。

リアムの後ろにはジーンとイライジャもいる。彼に近づくと、屈膝礼であいさつをした。


「ジーンに押しつけられた仕事が速く終わったから迎えに来ただけだ。令嬢。俺にいちいち堅苦しいあいさつはしなくていい」

「……いえ、そういうわけには」

「必要ない」

ミーシャはゆっくりと顔を上げた。


「ドレスについて、さきほど報告を受けた」

「少々、手を加えさせていただきました。いかがでしょうか」

 ミーシャは、ドレスの裾を両手で持つと、そっと広げて見せた。

「フルラから連れてきた花々を添えてみました。両国にとって良き縁が結ばれますように。陛下の御代の元、幸多く末永いご繁栄をお祈り申し上げます」

「祝詞、ありがとう。ドレス、とてもよく似合っている」

「ありがとうございます。陛下もとても素敵です」


 リアムは朝の出迎えのときとは違う衣装だった。

 ミーシャが今着ているドレスと同じ、黒に近い紺色を基調とした礼服で、金色の糸で細かな刺繍がされている。直視できないほど威厳に溢れ、麗しい。

 

謝辞を返すと、彼はそのままジーンたちを廊下に残し、ミーシャの部屋に入った。そして、衣装部屋へ足を向けた。


「お待ちください、陛下!」

 慌てて追いかけた。

修繕したドレスは今着ているものだけだ。他の衣装はまだ破られたまま。見せたくなかったが、追いつく前に彼は部屋の奥に向かった。


「令嬢以外はその場で待機」

リアムはライリーにも指示をすると、自分はつかつかと遠慮なく衣装部屋のドアを開け広げ、中へ入って行った。待機命令がないミーシャは部屋に近づき中を覗いた。彼は破れた衣装を手に取って眺めていた。


女性の個人的な部屋に、無断で開けて入る教育なんてしていないと、師匠風を吹かせそうになったがぐっと堪え、顔に笑みを貼り付け、自分も部屋に入る。


「陛下。ドレスのことは……」

「指示は自分がした。だろ」

 リアムはドレスから手を離すと、真顔でミーシャを見た。


来て早々、問題ばかり起こして申し訳なかった。責められているような気がして落ち着かない。目を合せ続けているのが辛く、すぐに顔を横へ逸らすとそのまま頭を下げた。


「陛下、どのような叱責でも喜んでお受けいたします。しかし、これから大事なパーティーが控えております。遅れると大変ですので、処罰はあとにして会場へ向かいましょう」

リアムからは返事がなかった。ミーシャはしかたなく、「失礼します」と伝え、ドレスの裾を持ち上げ、足早に入り口に向かった。すると、追いついたリアムが外へ出る前に、衣装部屋のドアを閉めてしまった。


 驚きのあまり、ミーシャはしばらく閉じられたドアを眺めた。

 ドアノブはリアムによって凍ってしまっている。

狭くはないが広くもない閉じられた部屋に、リアムと二人きりになってしまった。ゆっくりと振り返る。さっき以上に近い距離で目が合った。

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