第24話 国の裏切り者と、魔女の呪縛


 炎を操る魔女なのにみんなを凍らせてしまったと、顔に笑みを貼り付けながらも内心焦った。何でもいいから返事をして欲しいと、願う気持ちでリアムを見る。


 ミーシャの視線に気がついた彼はいきなり、刺すような冷気を纏った。すっと、目を細めるその仕草には覚えがあった。


「炎の鳥を呼ぶのは好きにしていいと言った。だが、我が師匠を否定することは許していない」


 冷たく、低い声だった。碧い瞳の奥に哀しみと怒りが見て取れる。

 

 リアムが、本気で怒っている。


 胸が心配と不安でいっぱいになった。

 激しい感情は魔力コントロールを狂わせる。彼は子供のころ、よく、感情にまかせて魔力を暴発させていた。クレアであれば噴水が凍ろうが、建物を氷漬けにしようが瞬時に溶かして対応できるが、今のミーシャには無理だ。


 彼を鎮めなければと焦っていると、リアムはサイラスにも厳しい目を向けた。


「十六年前の惨事はすべて仕組まれたものだ。嵌められた師匠にも落ち度はあった。しかし、非はこちら側にある。当時皇太子と言う立場でありがなら俺の叔父、オリバー・クロフォードはグレシャー帝国とフルラ国両方を裏切った。その事実を棚上げにして、師匠だけを侮辱するのであれば、サイラス。次は即、おまえの首をはねる!」

 

「陛下!」

 思わずサイラスの前に出て、彼を庇うように手を広げた。

 リアムはミーシャに近づくと、右手を自分の胸に当て、目線を合わせるように少し前屈みになった。


「ガーネット女公爵令嬢。本来、あなたにふさわしくないのはこの俺の方。だがこうなったからにはクレアの弟子として、俺はあなたに尽くし、償いたいと思っている。いくら身内でも、師匠に関する発言は今後、気をつけるように」


 光が射さない湖の底を思わせる碧い瞳に、ミーシャは、声を失った。


 このままではいけないと思った。

 白く輝くようだったリアムの心に、不完全燃焼でできた煤のような黒い影が濃く、墜ちている。

 

 クレアがしたことで悲しんだ人がいるのは事実。そんな愚かな師匠を止めてくれた。そのあともずっと慕ってくれた。もう十分だ。


 彼をクレアの呪縛から解放してあげたい。

 どうすれば、クレアを忘れてくれるだろう。


 心を痛め、発する言葉を探していると、リアムは小さくため息を吐き、ジーンを見た。

「出迎えとあいさつは済んだ。みんな、持ち場にもどすように」

「仰せのままに」

 ジーンがその場にいた侍従に指示を飛ばす。みんなが一様に頭を下げると、黙って去って行く。サイラスも目を伏せたまま何も言わずに下がった。


「令嬢はこちらへ。部屋まで案内する」

 リアムはミーシャに向かって手を差し出した。


「陛下。ご案内は私にお任せください」

 ジーンの申し出にリアムは首を横に振った。

「令嬢にはまだ話がある」

 向けられる瞳はどこまでも冷たい。ミーシャは渇いた喉を潤すために唾を飲み込むと、そっと彼の手に触れた。

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