第14話 エレノアの願い⑵

「リアム陛下は隣国から攻め入られないように、国中の川を凍らせ、常に結界を張り巡らせている」

「え……? 国中に?」

 ミーシャは目を丸めた。


「つまり、今も魔力を大量に消費している? そんなこと、私、知らない……!」

「グレシャー帝国民はみんな知っていますよ。フルラ国の一部の者も知っています。あなたはずっと国内ばかりに目を向けていた。情報がないのは、陛下から目を背けてばかりいるからです」

 エレノアの言葉にミーシャは胸が痛んだ。下を向いていると、エレノアが顔をのぞき込んできた。


「だけど、今知った。これから対応すればよい。凍り化を治した功労をもって、堂々と正妃になればよいでしょう」

「彼の治療を手柄にするつもりはありません」

 ミーシャはぐっと握りこぶしを作った。


「……正体も、打ち明けるつもりはありません」

「どうして?」

「彼の足を引っ張りたくないからです」

「彼は英雄、クレアは悪い魔女については、気にすることないと言っているでしょう?」


「彼の明るい未来に、私は、必要ありません」

 輝かしい人生を送って欲しい。彼が苦しむ事はすべて取り除いてあげたい。もう、師匠ではないミーシャにはそれくらいしか、してあげられることはない。

 下を向くと、エレノアがミーシャの肩に触れた。


「ミーシャ。あなたにも未来があるのよ」

 触れられている肩が暖かい。ミーシャはそっと、顔を上げた。


「私はあなたに幸せになって欲しい」

 やさしい眼差しだった。自分の事を本気で案じてくれていると伝わってくる。

 娘はクレアの生まれ変わりで、彼女にはたくさんの迷惑と苦労をかけた。誰よりも愛情を注いでくれたことを知っている。


「エレノアさまも、幸せになってね」

 エレノアは一瞬目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべた。


「今日は疲れたでしょう。もう、ゆっくりお休み」

 エレノアに「はい」と答え、彼女の背を見送る。

 

外に視線を向けると、窓ガラスに自分の姿が映った。

紫の瞳を見つめながらミーシャは心の中で、私は幸せになってはいけないと呟いた。





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