75.話を聞いてみます

 南の国の三人は、ごはんはまだかなと待っていたみたいだった。

 中川さんが鍋の中身を確認する。


「雑炊、ちょうどできたみたいだわ」


 そう言って中川さんは少し深みのある皿によそい、部屋に持っていこうとした。俺も立ち上がって彼女に付き添う。すぐそこではあるが、中川さんを一人で彼らのところに行かせたくなかった。


「山田君も来てくれるの?」


 中川さんが振り向いて嬉しそうに言う。それに頷いた。


「熱いから気を付けてくださいねー」


 彼らは戸惑いながら木の器を受け取ると、ふーふーと息を吐きかけながら少しずつ食べた。


「おいしい……とてもおいしいです。昨日もいただきましたが、これはいったい……」

「材料のことですか?」

「はい」

「これはお米です」

「お米?」


 三人は顔を見合わせた。南の国でも米はないのだろうか。ちょっと残念に思う。


「お米、とは……北の穀物なのでしょうか……?」

「いえ、こちらでも私たちは見たことがありませんが……南の国にはありませんか?」


 中川さんが反対に尋ねると、彼らは考えるような顔をした。心当たりがないってことは、米がない地域から来たのだろう。

 彼らが落ち着いてから話を聞かせてもらうことにした。

 朝飯を食べ終えたら今日の予定をみなで話し合う。女性陣は家の隣の林で香辛料を詰む。男性陣は薪割りと狩りだ。今回俺と中川さんは南の国の人の話を聞きたいので外してもらった。チェインは女性陣に付いていくことになり、なんだか不満そうだった。


「僕も狩りに行きたいのに……」

「ヤマダ様も一緒の時になら連れていくぞ」


 ムコウさんが言うと、チェインは俺の方を向いた。


「兄ちゃん」

「今日はだめだ」

「ええー……」

「ヤマダ様を困らせるんじゃないよ!」

「狩りに行きたいよー!」


 チェインはユリンさんに首根っこつかまれて連れて行かれてしまった。すまん、チェイン。俺は今日もダメなんだ(いつも大体ここにいないか、他のことで忙しい)

 みながいなくなってから、南の国の人たちに出てきてもらい外で話を聞くことにした。

 彼らが南の国から連れて来られたことは間違いなかった。ただ、彼らはどうして自分たちが連れ去られてきたのか知らなかったし、船に乗った記憶もないという。

 彼らは一人が女性、もう二人が男性だった。女性はマーキュリーと名乗った。男性二人は、マーズとウラヌス。一番最初に目を覚まして、俺と口を聞いたのはウラヌスだったらしい。


「その……記憶があやふやでして……いつのまにか暗い中に閉じ込められていたことは覚えているのですが、意識を失っていたらしいのです」


 申し訳なさそうにウラヌスさんが言う。

 俺は常時マップを出して、彼らの状態を確認していた。みな黄色だから敵対する意志はないのだろう。ここで敵対しても南の国には帰れないだろうからしかたないといえばしかたない。


「いつどこで攫われたとか、全く覚えていないんですか?」


 中川さんの問いに、三人は頷いた。


「質問を変えます。周りで行方不明になっている人がいるなどの噂を聞いたことはありましたか?」

「私は……ないです」


 マーキュリーさんが答えた。

 マーズさんは心当たりがあったらしい。


「酒場の娘が買い出しにいったっきり帰ってこなかったなんて話は聞きました。それ以外は……知る限りではないですね」


 ウラヌスさんも聞いたことはなかったようだ。


「酒場の娘さんがいなくなったのはいつ頃だったんです?」

「あー……一年近く前だったかと」


 その娘さんは無関係かもしれないが、南の国との貿易のついでに人攫いをしている可能性はあると思った。

 でも確か、ロンドさんの話では違ったかもしれない。王様は悪い商人に唆されて、南の国の人間を奴隷として買い取っていたのではなかったか? その悪い商人というのがローグ伯爵なのか? それとも他にいるんだろうか? 疑問は尽きない。


「そもそも南の国は今北の国と貿易をしているのか……?」

「貿易はしています」


 ウラヌスさんはきっぱりと答えた。


「そうなんですね。どういったものを南の国の人たちは北から輸入しているんですか?」

「主に、北でしか採れない植物や肉ですね。北の国からは保存の魔法が使える方が来るので、南の国の品物も買っていっていました」

「となると、南の国から北の国に来ている貿易船はないんですか?」


 中川さんが聞くと、少ないが北の国に向かう貿易船はあるらしい。南の国の出身者でもまれに魔法を使える者がいるらしく、その者を雇っているそうだ。

 貿易は行われている。(船の往来の頻度は不明)

 この三人の言っていることが正しければ、北の国に攫われてきている人がいることは巷ではまだあまり認識されていない。まぁ、南の国の王家とかは知っているかもしれないな。マップでの彼らの色は黄色いままだ。信用してもいいだろう。

 とにかく彼らをここに連れてきてしまったのはしかたない。いずれ南の国に返すにしてもどうやって返せばいいかなと首を傾げた。

 首に巻きついていたミコが顔を上げた。

 それを見て三人が驚く。


「ん? どうした、ミコ」

「そろそろお昼ね」


 中川さんが空を見上げて言う。


「そっか。じゃあメシでも用意するか」


 とりあえず話はそこで一旦止め、昼食の準備をすることにした。

 ……まぁ、なんつーか……南の国については知らないことばかりだから、彼らの素性を探りつつ情報を得られたらいいなと思ったのだった。


次の更新は、20日(水)です。よろしくー

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