73.目が覚めたかな?
気つけという意味では、鮮明な香りの方がいいだろうと思う。
なんかあったっけ? と首を傾げつつ今日の調味料を確認していないことを思い出した。なのでおもむろに水筒を開けようとしたら、ヤクの肉を両前足に持ったミコと中川さんが俺の前に滑り込んできた。この調味料の為に集まるかんじ、かわいくてしかたない。
しかし両前足に肉を持ってるってすごい図だな……。
「じゃあ開けるぞ~」
そう言って水筒を水筒のコップに向けて傾ける。
「お!」
香ばしい匂いがして、出てきたのは焼肉のタレだった。
「よっしゃ!」
焼いた肉につけると最高だよな。さすがは焼肉のタレ!
ミコはなーんだと言うように肉をもしゃもしゃと食べ始めた。
「肉を焼きながらかけたらすごくいい匂いが広がりそうね!」
中川さんが目を輝かせた。ミコは肉を食べ終えると、元の場所に戻って残った肉を食べ始めた。残っててよかったと思った。これで残ってなかったら鼻を噛まれていたかもしれない。くわばらくわばら。
中川さんには残っていた焼肉のタレを渡し、新しいのは別の竹筒に移し替えた。水筒に水を入れて振り、それはスープに使う。
中川さんはケイナさんたちと楽しそうに料理を始めた。
やがて焼肉のタレのとてもいい匂いがしてきて、口の中に唾が溜まってきた。この匂いで起きないとかあるのか? と思いながら部屋を覗いたら、一人が目を覚ました。
「……こ、ここ……」
ニワトリかな?
「こ、ここ、ど、こ……?」
声がひどくかすれている。
「目ぇ覚めた? 水持ってくる」
「えっ?」
げほっ、ごほっと咳き込んだのを見たけど今は背を摩ったりするよりも水分だろう。
「中川さん、一人起きたみたい」
「ありがとう。水持っていくわね」
「俺も行く」
「そう? ありがとう」
中川さん一人でも危険なんてないことはわかってるけど、俺が嫌なのだ。
全員が起きてたらいいなってことで、木のコップを三つ持ってった。水は中川さんが出してくれた。俺も水魔法は使えるけど、どうも少しだけ出すってことができない。魔力の操作が雑なんじゃないかとドラゴンに言われたが、ドラゴンには負けると思う。
話が逸れた。
「起きてますかー?」
中川さんが中に声をかける。俺が前に出て、布を捲った。
一人は身体を起こしていて、途方に暮れたような顔をしていた。二人はまだ意識が戻っていないようである。
「おひとり起きてるのね。水、飲みませんか?」
「み、ず……」
身体を起こして壁にもたれて座っている人は中川さんからコップを受け取り、震えながら水を呷った。
ごほっ、げほっとむせる。よっぽど慌てて呷ったようだ。
「落ち着いてください。まだありますから」
中川さんが優しく声をかける。その人はしばらく咳き込んでいたが、やがて落ち着いたらしく、俯かせていた顔を上げた。
ひょろりとしたその人は、長い金髪で顔も隠れていたから性別不明だった。貫頭衣を着ているし。
「あ、ありがと……こ、ここは……」
「北の国の山の上です」
「きた、の……くに……」
中川さんが答える。その人は茫然としたように呟いた。そこにどんな感情が乗っているのかはわからなかったが、マップで確認する限り、三人とも黄色のままだった。敵対はされていないけど、これからどう転ぶかわからないかんじだ。
イタチはともかくとして、ここで他の人たちの色は緑か青だから黄色ってけっこうな違和感だ。
ところでまだ起きない人たちは大丈夫なんだろうか。
「何か食べられます? 食べられるなら……」
中川さんがそこまで言った時、ぐうううう~~~とその人から盛大な音がした。どうやら腹の虫が鳴ったみたいだ。
「……あ……」
「スープでよければ持ってきますね」
中川さんはそう言って笑った。その人はぺこりと頭を下げる。俺たちは土間に戻った。
「スープ、作ってよかったわね」
「だね」
「おかゆとか食べるかしら?」
「作ってみて、食べなければ俺らで食えばいいんじゃないかな」
「そうね」
ってことで米を少し柔らかく煮て、スープに入れた物を運んだ。水を入れて冷ます。いきなり熱いのを食べたら火傷しそうだし。
その人はおそるおそるスープを口にして、一瞬固まったと思ったら次の瞬間には勢いよく食べ始めた。
おいしかったならよかったと、中川さんと顔を見合わせてほっとした。
「あ、ありがとう、ございま……した……」
小さめの器の半分ぐらい食べると、おなかいっぱいになったようだった。食べられてよかったと思う。すると、隣で寝ていた人たちが目を覚ました。
「……こ、ここ……」
反応が一緒だと思った。
そしてテトンさん、ケイナさんにも手伝ってもらい、どうにか三人全員にごはんを食べさせることができた。
「ありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
三人は俺たちに向かって深々と頭を下げた。まだ身体も弱っていることだしと、寝ていてもらうことにした。トイレは外になるということは伝えたし、俺たちがイタチと暮らしているということも言った。テトンさんたちには角があるけど、耳の後ろの目立たないところにあるから姿形に違和感は覚えなかったみたいだ。
「部屋貸しちゃったけど、今夜はどこで寝よっか?」
中川さんに聞かれて噴きそうになった。中川さんは俺と一緒にいるつもりらしい。
「え? ああ、俺は家の前にダンボール敷いて寝るか、ドラゴンさんの洞窟にでも行こうかと……」
「ドラゴンさんの洞窟もいいけど、やっぱり家の近くにいた方がいいわよね」
中川さんはそう言いながら、三人を除いた全員に結界魔法をかけた。万が一三人に危害を加えられるようなことがあったとしても大丈夫なようにである。中川さんは俺と違っていろいろ慎重だ。
「そういえば寝床がリュックの中にあったじゃない?」
「あー、確かに」
前に外出先で寝る用に簡易ベッドを作ったんだよな。思い出してくれた中川さん、グッジョブである。
簡易ベッドを二台出したら、中川さんがベッドをくっつけた。
「こうしたら落ちないわよね?」
「そ、そうだね」
ちょっとどぎまぎした。
テトンさんたちは是非自分たちのところへと誘ってくれたけど断った。一部屋一部屋、そこまで広くはないのである。
久しぶりに天井のない寝床で寝転がる。解放感がすごい。ミコたちも最初俺たちの部屋に行こうとしたが、今日は外で寝ると言ったら付き合ってくれることになった。
「キレイね」
「結界魔法がなかったらそんなこと言ってられないけど……キレイだなぁ」
何せ暖かくなっているから虫も出てきたし。
空にはたくさん星が瞬いていた。
そうして星を数えながら、俺たちはいつのまにか寝てしまった。
次の更新は、13日(水)です。よろしくー
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