72.連れてきてしまいました

「……きっと、南の国の人たちよね?」


 ドラゴンの背の上で、中川さんがポツリと呟いた。

 勝手に船の中から拉致ってきてしまったが、大丈夫だろうか?(今更)


「……多分」

『して、これからどうするのじゃ?』


 ドラゴンに問われてハッとした。このまま南の国へ向かうってのはさすがにありえない。としたら……。


「……山に戻ろう」

「そうね。ドラゴンさん、山に戻りましょう。できれば今日中に着きたいわ」

『お安い御用じゃ』


 ドラゴンは張り切ったようにぐんぐんスピードを上げ始めた。確かに今日中に着けるなら着けた方がいいんだけどおおおおお!

 なんか膜のようなもので周りを覆われた気がして、中川さんの方を見た。彼女はバツが悪そうな顔をした。


「ごめんね、気づかなくて……」


 どうやら結界魔法を使って風の影響などを受けないようにしてくれたらしい。


『不思議な感覚じゃのう』


 ドラゴンが呟く。ドラゴンもまとめて結界魔法で覆ったみたいだ。ドラゴンは結界魔法を使うほどではなかったから、今までかけてくれていなかった。それは中川さんも同様みたいだった。

 弱いのは俺だけか、と思ったけど、今回は気絶している人たちを守る為だからしかたないんだろう。


「中川さん、結界魔法ってどれぐらい使えそう?」

「うーん……そんなに長い時間使ったことがないからわからないわ。でもつらいとは全く思わないから、それなりに持つんじゃないかしら」


 そりゃあ結界魔法を丸一日使うなんてシチュエーションは今までなかったもんな。

 そうしてドラゴンにはできるだけ速く飛んでもらい、日が落ちる前に山の上に着くことができた。その間気絶していた人々はずっと意識がないままだった。大丈夫かと思い、定期的にマップを見ては生きていることを確認したりした。(マップに映るのは生きている存在のみである。これはいろいろ調べたからわかっている)


「ドラゴンさん、ありがとう!」

「ドラゴンさん、すごく助かりました。ありがとうございます!」


 ドラゴンの背から三人を下ろし、俺と中川さんはドラゴンに礼を言った。


『ふん……大したことではない』


 ドラゴンがそっぽを向く。ツンデレ発動のようだ。海上まで飛んでもらい、南へ向かってもらったりしたんだから礼は絶対するべきである。

 とりあえずリュックを漁った。俺がリュックからドラゴンにあげる肉を探している間に、中川さんはテトンさんたちに事情を話し、彼らを家の中に運んだ。


「ドラゴンさん、とりあえずこれで……」

『うむ、よくわかっておるな』


 出したのはヤクの肉だ。大きめの一塊を出せば、ドラゴンは嬉しそうに受け取ってくれた。


『明日は狩りに行きたいものじゃが……』

「えーと、ちょっと今の時点では約束できません。あの人たちの事情を聞かないと動けないので」

『そうか。なればしかたない』


 一応わかってくれたみたいだ。でも尾が垂れて、力なく揺れた。

 もしかしたらテトンさんたちがゴートとか狩ってるかもしれないから、それを分けてもらえないかどうか交渉しよう。

 ミコが俺の上着の内ポケットから顔を覗かせた。


「ミコ、お疲れ様」


 その頭を撫でる。


「船から三人連れてきちゃったから、ちょっと待っててくれ」


 そろそろイタチたちにもごはんを用意しないといけない。西の山に太陽が沈み、辺りが暗くなってきた。夜目が利かないのが本当に不便だと思う。


「あ、山田君。一応私たちの部屋に寝かせたけど……」

「ああうん、大丈夫だよ」


 なんだったら俺は外かドラゴンの洞窟で寝てもいいし。中川さんはテトンさんかユリンさんたちのところで寝るだろうし。

 中川さんが鑑定したところによると、彼らやはり脱水症状のような状態になっているらしい。寝ながらでも水は飲んだというから、後は本人たちの体力次第だろう。

 テトンさんたちに彼らの件を話した。

 みな眉を寄せた。


「……まだ南の国から人を攫ってきていたのですね……彼らに角はありませんでしたから、間違いなく南の人でしょう」

「それも貴族の船だなんて……許せないわ」

「南の国の人間は魔法も使えず弱いと聞いています。彼らを攫ってどうしようというのか……」

「……ろくなことをしないわねえ」


 チェインはイタチたちに遊ばれていた。ごろごろしながら戯れている様子はなんとも微笑ましい。


「目を覚ませばいいんだけど……」


 中川さんが目を伏せた。


「何も食べてなさそうだから、スープとか作ったら匂いで起きたりしないかな? って短絡的か……」


 どうしたらいいのかわからないので、提案してみた。そして俺ってあほかもと反省した。


「起きるかどうかはともかく、夕飯の支度はしましょうか!」

「そうね」

「そうしましょう」


 ということで、女性陣は調理を始めた。俺はダンボールを出してそこにゴートやヤクの肉を並べていく。これはイタチたちの分だ。


「ミコー、みんなー、ごはんだぞー」


 と呼べば、チェインに絡まっていたイタチたちが駆けてきた。一番はミコである。


「ごはん、遅くなってごめんなー」


 ミコはキュウウッと鳴くと、ヤクの肉にかじりつく。そうしてから他のイタチたちもがつがつと食べ始めた。見た目はかわいいけど、やっぱ獰猛だよなぁ。

 そうして俺たちは三人が目を覚ますのを待ったのだった。


次の更新は、9日(土)です。よろしくー

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