71.もうめちゃくちゃだったりする

 船内の通路はとても狭い、そして暗い。

 でかい船だからまだ下がありそうだった。


「山田君、部屋の中は調べなくてもいいの?」

「とりあえず一番下まで行ってからかな。囚われてる人って一番下の船室とかにいそうじゃん」

「それもそうね」


 そう言いながら「何者だ!?」と襲い掛かってくる者を無力化して縛り、どっかの部屋に放り込んでいく。中川さんも後ろから襲ってくる者を簡単に撃退していた。


「角があるから暗いところでも見えるのかもしれないけど、意外と弱いわねー」


 と言いながら。

 俺たちが強くなりすぎたのかもしれません。(なんで丁寧語)

 それだけの苦労はしたけどなーとまた下に向かう階段というか梯子を見つけて降りる。それにしても中川さんの結界魔法ってどのぐらい長く持つもんなんだろう。いきなり攻撃されてもなんともないんだけど。

 というかんじで四階分ぐらい降りただろうか。真っ暗な場所に着いて、ここがおそらく一番下なのではないかと思った。この下にバラストが入っているんだろう。


「誰かいませんかー?」


 声をかける。黄色い点は近くに見えた。

 寝ているのか、それとも口をきけないようにされているのか、真っ暗でわからない。ここには見張りもいないようだった。


「……人の気配はするわね」

「いるかもしれないな」


 俺は多分マップに頼りすぎなんだろう。中川さんのように人の気配を感じ取るのは難しい。マップでの先入観があるから余計だった。

 マップの利点がありすぎて使わないって選択肢がないんだよな、っと。

 後ろから攻撃しようとしてきた者を振り向きざまに殴って無力化した。俺たちの身体がもう凶器に近い。多分手加減をしないと簡単に殺してしまいそうだった。ロープで縛って転がしておく。


「貴様らっ、こんなことをしてただですむと思っているのか!?」


 三人ぐらい無力化したところでソイツらが叫んだ。

 ただですむも何も海の上でどうしようというのか。


「さぁ?」


 中川さんがやる気なさそうに答えた。


「こっちにいそうだよ」


 彼女に声をかける。目が慣れてきて、彼女の輪郭はくっきりと見えるようになった。他の箱っぽいのとかも見えてくる。

 マップの位置だと、あの箱の中っぽいなー。だからなんの声もしなかったのか。黄色い点ってところからして、多分生きてはいるだろうけど。


「この箱の中かな?」

「それに触るなああああ!」

「当たりみたいね~」


 彼らはやっぱり暗いところでもよく見えるようだ。


「どうやって開けたらいいかしら」


 中川さんは火魔法で明かりを灯し、でかい箱を観察した。


「釘で打ち付けてあるみたい。ここから指が入りそうだけど」

「危ないから俺がやるよ」

「やめろっつってるだろうがっ!」


 外野がうるさい。俺はぎゃあぎゃあ言ってるのを無理して箱のほんの少しの隙間に指を無理矢理突っ込み、思いっきり引っ張った。

 バリバリバリバリ、バリーン! と派手な音がして箱が壊れた。

 いっけね、と思った。


「中の人たちは守ったから大丈夫よ」

「ありがと」


 果たして、中にはぐるぐる巻きにされた人が三人いた。急いで洗浄魔法をかけて抱き起こす。


「んーっ、んーっ、んーっ!」


 一人が反応して身じろいだ。

 ミコが上着の内ポケットからするりと出てきて、俺とぐるぐる巻きにされている人を見た。


「ミコ、このロープ齧ってもらってもいいか? この人たちは齧らないでくれ」


 キュウとミコは鳴き、カイと共に三人のロープを齧って自由にした。そして後ろから罵声を浴びせられながら水を飲ませた。どうやら魔法かなにかで眠らされてたらしいが、そのせいで三人とも脱水状態だった。ひどいことをするもんだ。

 そして、三人には角がなかった。


「あ、あの……いったい……」

「南の国の人ですね? 助けにきました」

「ええと……」


 戸惑う三人を中川さんと共に担ぎ、甲板に向かって駆けた。もうなんつーか俺たちの身体能力が化け物すぎる。バランス感覚もいいし、向かってくる敵も足だけで倒せるし、なんかマンガのヒーローにでもなった気分だ。

 それでも甲板まではけっこう遠かった。

 しかも後ろから追いかけられてるし前からも襲われるし。ああもう狭くて嫌だ。

 つーかこの船何人乗ってんだよー。

 そんなことを考えながらどうにか甲板に出た。

 遠かった。


「ふーっ!」


 中川さんが大きく息を吐いた。気持ちはわかる。


「山田君、ドラゴンさん呼んで!」

「ドラゴンさーん!」


 俺ももうこの船の上にいたくなかった。担いでる人たちはぐったりしている。振り回し過ぎたかもしれない。でも不可抗力だと思った。(ホントごめんなさい)

 ドラゴンは側を飛んでいたらしく、すぐに近づいてきた。


「えっと、どうやって乗ろう……」

「山田君、この人お願い!」

「えっ?」


 中川さんはぐったりしている一人を下ろすと、船に並走するように飛んできたドラゴンに飛び乗った。そしてドラゴンの首にロープをかけ、自分の身体も縛る。


「ドラゴンさん、もう一回同じように飛んで!」

『ドラゴン使いが荒いのぅ』

「山田君、一人投げて!」

「えええええ?」


 と思ったけどそうでもしないと乗れないわな。ぐったりしている人を中川さんに投げ、再度同じように飛んできてくれたドラゴンに俺も二人を両脇に抱えたまま飛び乗った。


『伏せよ』


 ドラゴンの言う通りに二人を抱えたままドラゴンの背に伏せる。振り落とされないか心配だったけど、ドラゴンは思ったよりも静かにそのまま上昇した。中川さんからロープを投げてもらい、それで俺と二人を繋ぐ。随分静かだなと思ったら、俺と中川さん以外の三人は気絶しているようだった。

 無事だといいけど、と冷汗を掻いた。

 ちなみにミコとカイは俺の上着の内ポケットの中や、中川さんの上着の内側にへばりついていて何事もなかった。


「どうしよう……」


 救出したはいいけどどうしようかなと途方に暮れた俺だった。


中川さんの身体能力高すぎ&魔法センス最高問題(ぉぃ

次の更新は、6日(水)です。よろしくー

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