70.半ば目的を忘れていたけれど

 次の日もドラゴンに乗って海へ連れて行ってもらった。

 今度は海に出てから南の方向へと飛んでもらう。

 大型船がどういうルートで南の国へ行っているのかとか、帰ってくるルートがわかったらいいなと思ったのだ。そんなわけで俺の右上のマップは開いたままである。

 ドラゴンにはゆっくり飛んでもらっているので、中川さんと話すこともできた。

 マップ上は俺を中心として、大きな緑の点の上に中川さん、ミコ、カイのそれぞれの点が見える。海の上なのでそれ以外の点は見えなくてなかなか平和だ。

 しばらく南に飛んでもらうと、黄色い点が右上に見えた。


「ドラゴンさん、船みたいなのが近づいてきてます?」

「そうじゃな、南の方から走ってきておるぞ」


 ドラゴンの上から前方を見れば、海上に船の穂先のような物が見えた。まだそれなりに遠い。


「ホントだ。山田君、よく見えるわね」

「障害物がないからたまたまだよ」


 そう言って誤魔化した。でもそろそろマップの存在は教えないといけないよな。ぶっちゃけ色のこととか教える必要はないんだから、もっと前に伝えておいてもよかったかも。

 余裕ないな、俺。ずっとか。

 船が近づいてくると、それが大型船だということがわかった。南の国から来たのだろう。

 大型船はそのまま北に向かうのかと思ったら、何故か回頭し始めた。


「もしかしてドラゴンさんの姿が見えたのかな」

「でも船じゃ普通ドラゴンさんからは逃げられないわよね?」


 中川さんが冷静に言う。それでもドラゴンが見えたら逃げたくなるのが心理じゃないかな。座して攻撃されるのを待つわけにもいかないだろうし。

 とはいえ旋回している間にドラゴンには追い付かれるだろう。


「うーん、どうしよっか」

「そうね。どうせだから注意喚起ついでに船にお邪魔させてもらう?」

「えええ?」

「ドラゴンさんの背から飛び降りても大丈夫な高さまで高度を下げてもらえれば、飛び乗ることは可能よね?」

「降りた途端攻撃されるかもよ?」

「でも、私たちなら平気でしょう?」


 中川さんの言葉は慢心ではない。矢を射られても、至近距離で切りつけられたとしても今の俺たちは全く問題ないのだ。それに中川さんは結界魔法が使える。これは任意で範囲が指定できるらしいので、チート中のチートだと俺は思っている。


「結界魔法を使えば、それなりの高さからでも大丈夫じゃないかな」


 万が一ドラゴンに矢を射かけられたりしたらたいへんだ。


「それもそうね。ドラゴンさん、船の真上まで移動してもらっていい?」

『かまわぬぞ』


 ドラゴンは返事をすると、俺たちを乗せたまま船に向かってスピードを上げた。


「ミコ、カイ、しっかり掴まっててくれよ」


 イタチたちには先に注意しておく。いきなり衝撃を受けたらびっくりするだろうし。

 ドラゴンが近づくと、船の点が一気に赤くなる。そりゃあ怖いよな。

 ドラゴンが船の真上に着いてから急いで紐を外し、


「ありがとうございます。ちょっとこの辺で飛んでてください」

『うむ、用が済んだら呼ぶがいい』


 中川さんと共に船の上に飛び降りた。

 中川さんに結界魔法をかけてもらった上で、である。


「うわーっ!」

「何者だ!?」

「やれ! やっちまえ!」


 矢も切りつけられる剣もかけてもらった結界が全て弾いてくれた。やっぱチート万歳、だな。


「驚かせてすみません! ちょっと聞きたいことがあるので、責任者を呼んでください」


 務めて冷静に声をかけたけど、恐慌状態の彼らが聞いてくれるわけはなかった。しょうがないから剣で切りかかってきたおじさんを捕まえて、


「話を聞いてください!」


 と大声で訴えてみた。

 中川さんも面倒くさくなったのか、二、三人取り押さえている。


「な、なんだ? お前たちはいったいなんなんだ!?」

「南の国の方から来た船を調査してるんです。この船に南の国の人は乗っていませんよね?」


 そう聞くと、おじさんはギクッとした。マップは俺たちを除いて全て赤い。まだ敵対していることは間違いない。その真っ赤に紛れて、黄色い点が見えた。


「南の国の者、だと?」

「はい。もう南の国から人を攫ってきてはいけないと国から触れが出ているはずです。なので南の国の人が乗ってないかどうか調査してるんですよ~」

「乗ってるわけがないだろう……」


 俺は中川さんの方を見た。中川さんは首を振った。

 だよなぁ。絶対このおじさん嘘ついてるよな。


「じゃあ、船内の調査をさせてもらってもいいですか?」


 よくマップを確認すると、どこかに黄色い点が三つほど見えているのだ。高低差とかはマップではわからないけど、きっと船の下の方に誰かがいるんだってことはわかる。


「ちょ、調査の権限はあるのかっ? この船はローグ伯爵の船だぞ! 調査など一度も聞いたことがない!」


 名前からしてやばくね? と思ってしまった。


「えー? 伯爵の船って船内調査とかされたことってないんですか?」

「そんなものさせるわけがないだろう! 伯爵の私船だぞ!」


 俺に取り押さえられているのにこのおじさんよくしゃべるなー。


「そうなんですかー。じゃあ調査させてもらいますねー」

「おい! 聞いていたのか!?」


 聞いてたけどそれは聞けない相談なんです。俺はロープを出しておじさんを縛って転がした。途端に周りにいた船員とかが襲ってきたけど全て返り討ちにして縛ってしまう。つっても簡単に足と手を縛っただけだから抜けちゃうかもな。こんなことなら親父に人の縛り方とか教わっておくんだった。(親父はオタクなのでいろんなことを知っている)

 中川さんが取り押さえた人たちも縛り上げ、俺を先頭にして船内に入る。

 狭い船内でかかってこられても、倒すのはいいんだけど邪魔だよな。適当に縛ってその都度どっかの部屋に放り込んだ。


「やっぱり黒よね?」

「たぶんね」


 船内調査をさせてくれないってだけで十分黒だろう。

 マップを横目で見ながらそれからもやってくる船員とか私兵とかを倒し、ようやく二つ目の階段を見つけて階下へ降りたのだった。


次の更新は、11/2(土)です。よろしくー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る