66.海に出たらおいしいだろうか(食欲が止まらない)

 港町で買ってきたマグロもどき、頭から尾びれまで2m以上もの長さがあったから、もしかしたら大味かもしれないなんて思ってすみませんでした。

 マグロもどきを食べやすい大きさに切り、ステーキにしてもらった。(女性陣に)


「うまあああああ!!」


 チェインが叫ぶ。

 俺も、これだ! と思った。やはりマグロは正義だ。魚の王様だと俺は思う。(個人の感想です)


「おいしいねー。でもこれ、しょうゆもみりんもあるから余計だよね!」


 そう水筒から出た調味料を吟味して、中川さんがこれで! と焼いてくれたのだ。和風マグロもどきステーキ、絶品です。

 みんなおいしいおいしいともりもり食べた。テトンさんたちの口にも合ってよかったと思う。

 ミコたちにもあげたし、ドラゴンとオオカミにも出した。ドラゴンは好きらしかったが、オオカミはそこまでではなかったみたいだ。残念。


「もっと魚、買ってくればよかったわね」

『魚など獲りに行けばよかろう』


 ドラゴンがこともなげに言う。


「え?」

「自力でってこと?」


 中川さんが聞き返した。ドラゴンは首を傾げた。


『すれすれを飛んでやれば獲物など水の中からいくらでもくらいついてくるぞ?』

「マジか……」

「えっ? ってことは大型船じゃなきゃダメな理由って……」


 俺は中川さんと顔を見合わせた。マグロもどきがドラゴンを襲ってくるとは考えづらいが、海の生き物でドラゴンを襲おうとする魔獣がいるみたいだ。海だから海獣か? いや、海獣は確か海に棲んでる哺乳類のことだったような? もうわっかんねえな。海魔獣? 勝手に言葉作るなっての、俺。


『大型船? ああ、小さい船であれば簡単に壊されてしまうじゃろうて』


 ドラゴンが当たり前のように言う。ってことは海の中も危険でいっぱいってことだ。


「ドラゴンさんは海で襲ってくる魚? をどうやって獲るんですか?」

『跳び上がってくるのでな。それに噛みつけばいいだけじゃ』


 なかなかにワイルドな狩りだった。


「それだと一頭しか獲れませんよね?」

『そうじゃな。だが、一頭がそれなりにでかいのでな。それで充分じゃ』

「でかい……この魚よりも大きいんですか?」


 中川さんが聞く。ドラゴンは頷いた。


『うむ。もっと長くてでかいのぅ』

「おいしいんですか?」

『それなりにうまいぞ。大量に食いたくなると獲りにいったりもするのぅ』

「へえええええ~~~~~」


 ちょっと食べてみたい。

 なんかー、もう海に出る目的を忘れているような気がするけど海の調査も必要だよな、うん。

 俺はうんうんと頷いて自分を納得させた。中川さんがそんな俺をじっと見る。


「……おいしいお魚、食べられるといいわよね!」


 笑顔でそう言ってくれた。うん、まぁ簡単に言えばそういうことだ。ごはん大事。

 ケイナさんとユリンさんが苦笑していたが見なかったことにした。おいしいごはん大事。(本当に大事なことなので二度言いました)


『……そなたら、海へ向かうのはかまわぬ、南の国へはいつ向かうつもりか』


 とうとうオオカミに聞かれてしまい、ギクッとした。それには中川さんが答えてくれた。


「えっと、まだ南の国からこちらへ連れて来られた人たちが全員南の国に送り返されたかどうかの確認が取れていないんです。海に出れば船の動きが見られるかもと思いまして。見られなかったら獲物を狩って戻ってくればいいと思うのですが」

『……海については我もわからぬ。まだ時間がかかるようなら我は森へ戻ろう。十日後にイイズナの縄張りに寄ろうぞ』

「それも、いいかもしれませんね」


 俺は頷いた。


「ええー? ラン様いなくなっちゃうのー? 寂しいよー!」


 チェインが途端に声を上げた。


『我は元々森に棲むものじゃ』

「じゃあもうラン様はここに来てくれないの?」

『う……い、いや、冬になればそなたらは森に戻ってくるであろう……?』


 オオカミさんも悲しそうな子どもにはタジタジである。

 チェインは目を見開いた。


「あ、そうだった! 冬は森で過ごすんだもんね。そしたらラン様とまた一緒?」

『うむ、一緒に過ごせるかもしれぬな』

「わーい!」


 チェインは両手を上げて喜んだ。素直でいいよなぁ。


「オオカミさん、引き止めてしまってすみませんでした。もし、なんですけど……十日後に森の家に向かえなかった場合はどうすればいいでしょうか?」


 そう尋ねたらオオカミはフンと鼻を鳴らした。


『そなたが我を呼べばいいだけではないか』

「あ……そうでしたね」


 俺は頭を掻いた。つい忘れてしまうんだよなぁ。俺が叫んだら声が届くとか、わかってるけど不思議だろ? それをドラゴンとオオカミも理由はわからないけど受け入れてるってところが解せないんだよなぁ。もしかして俺の頭が固いんだろうか。


「俺たちが遅れそうな場合も伝えた方がいいですか?」

『それは必要ない。我は森の中を回っている故な。十日後そなたらがイイズナの縄張りにおらなんだら東のと言葉を交わせばよい』

「わかりました」


 遠くから「今これこれこういう状況です」ってオオカミに向かって叫ぶのもおかしな話だよな。そもそもの話、俺の声ってどこまで届いてるんだろう。関係ない人とかにも聞こえたりしてるのか? それはなんかなーってかんじだ。今度オオカミとかドラゴンを呼んだ時聞こえたかどうかヘビに聞いてみよう。

 そんなわけでオオカミは明日の朝森に出立することになった。

 夕飯の後、暗くなっていたけど女性陣はにこにこしながらドラゴンの洞窟の奥の風呂へ向かった。それなりに時間がかかりそうだったので俺たち男性陣は遠慮することに。


「中川さんたちは風呂に行ったから、俺たちは先に寝ような」


 ミコにそう言って洗浄魔法をかけたらまた鼻を甘噛みされた。何度されても怖いものだ。布団に入るんだからキレイにしなきゃだめだろっつーの。

 ミコを優しく撫でてそう言い聞かせたのだった。


次の更新は、19日(土)です。よろしくー

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